『逃げ恥』から『わたナギ』を経て『西園寺さん』へ TBS火曜ドラマが更新する“家族”の形
『西園寺さん』の“偽家族”は『逃げ恥』と『わたナギ』で模索されていた家族モデルの発展形
『西園寺さん』で描かれる同居していることを隠して助け合う“偽家族”も『逃げ恥』で描かれた契約夫婦の延長線上にあるものだが、今振り返ると『逃げ恥』のみくりが家事代行業の仕事をしていたのは、興味深い。 2020年の『私の家政夫ナギサさん』(TBS系/以下『わたナギ』)では、仕事はできるが家事が苦手な相原メイ(多部未華子)が、スーパー家政夫の鴫野ナギサ(大森南朋)に家事を担当してもらうことで癒されていく姿が描かれたが、『西園寺さん』の“偽家族”は『逃げ恥』と『わたナギ』で模索されていた家族モデルの発展形で、家事代行サービスを筆頭とする「家事の外部委託」を積極的に取り入れた新しい時代の家族の在り方を描いていると言える。 西園寺さんは家事支援アプリの制作に関わっており、友人の宮島陽毬(野呂佳代)も家事代行サービスの会社で働いている。そのため対価を払って家の掃除や片付けをやってもらう家事代行を利用することは当たり前のことだと考えている。だからこそ、仕事と家事の両立に追われている楠見に対して、あんまり頑張りすぎないで、手を抜けるところは家事代行に頼んでもいいのでは? と提案する。 しかし、楠見は亡くなった妻が家事を自分でやる人だったため、妻の代わりに一人で娘を育てようと考えており、その結果、自分自身を追い詰めてしまう。 そんな楠見の姿と、家事に忙殺される日々に嫌気が差して失踪した母親の姿が重なって見えた西園寺さんは「そんな自己犠牲、自分勝手すぎるよ」と言って楠見と衝突。最終的にルカの話を聞いた楠見が、妻が家事を「楽しんでいた」ことを思い出したことで、考えを改め、西園寺さんを頼るようになる。 「ここに居なよ」と楠見に言った後、「私はやりたいことだからやってるだけなの。やりたくないことをやってる人を、やらなくていいようにすることが、私のやりたいことだから、やってるの!」と西園寺さんは言う。「やらなければならない」という使命感ではなく自分が「楽しい」から「やりたい」という素朴な気持ちこそが家事や育児には大事なのだという主張は、ラブコメを通して社会性の高い作品を送り出してきた火曜ドラマならではの明るいメッセージだと言えるだろう。 家事代行業のような外部のサービスを利用する家族を肯定的に描く『西園寺さん』が、これからどのような“偽家族”を見せてくれるのか、楽しみである。
成馬零一