<球児のために>2020年センバツを前に スポーツ障害 学童期から肘守る
医師が投手をしている男児(12)の肘に機器をあて、超音波で骨の状態を確認していく。「裂離(れつり)(剥離)骨折かもしれないね」。肘の内側の靱帯(じんたい)に引っ張られて骨の一部がはがれる野球障害の一つだ。医師が「古い骨折がちゃんと付かずに治ったのかもしれない」と病院で再検査するよう伝えると、ショックを受けた男児は涙をこらえていた。 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 前橋市内で1月に開かれた「ぐんま野球フェスタ」で、小~高生約400人が肩肘の検診を受けた。企画したのは、慶友整形外科病院(群馬県館林市)スポーツ医学センター長の古島(ふるしま)弘三医師(49)。傷めた靱帯の代わりに正常な腱(けん)を移植する「トミー・ジョン手術」を約600例手がけた整形外科医だ。古島医師によると、日本の小学生の過半数が肘の痛みを経験、その約半数が高校生で再発。小学生で肘を痛めなければ発症率を10%以下に抑えられるという。 野球の投球動作により肘を痛めるスポーツ障害は、投げ過ぎや正しくないフォームでの全力投球で肘に過度な負荷がかかることで起こる。特に小中学生は骨が軟らかくて筋肉や関節が未熟で負荷に弱く、疲労が蓄積しやすいので痛めやすい。 2018年の侍ジャパンU12(12歳以下)代表でも15人のうち3人に肘外側の障害がみられ、10人が肘内側の障害を経験していた。今春の選抜高校野球から球数制限(1週間で500球以内)が導入されるが、幼い頃から対策を取る必要性を訴える声が上がっている。 古島医師は群馬県内を中心に、指導者向けの講習会などで障害予防を訴えてきた。群馬県スポーツ少年団は15年からライセンス制度を導入し、講習を受けないと大会でベンチ入りできない仕組みを作った。リトル大胡スターズ(前橋市)の君塚裕監督(53)は「精神論だけの古い指導を続ける限り、子どもたちの障害は減らない。指導者も学ぶべきだ」と指摘する。 動きは中学にも広がりつつある。中学硬式のポニーリーグ(全国の147チーム加盟)では今年から、学年ごとに試合や練習での球数の制限を設けた。リーグの垣根を越えた中学硬式5団体の全国大会でも今年から導入される。古島医師は「球数制限は、子どもの肩肘を守るための『基準線』。成長期にリスクを減らすことが大切だ」と強調する。【神内亜実、荻野公一】=随時掲載