県立美術館が6720万円で購入した絵はニセモノ? 120人の画家の作風を真似た天才贋作師の“ヤバすぎる完成度”
“存在が確認できない作品”を一から生み出す
個人の所蔵でなく、公立の文化施設が税金で入手したとなれば、当然、購入時の確認に問題がなかったかが問われることになる。 しかし、事情を詳しく聞くと、当時は贋作と疑うことが難しい状況にあったことが明らかになった。 まず、高知県立美術館の『少女と白鳥』について。この作品の作者とされてきたカンペンドンクについては、1989年にドイツの美術評論家が彼の作品を紹介する目録を刊行している。 この目録は、カンペンドンクに関するもっとも詳細な研究書とされており、その中で編著者の評論家は『少女と白鳥』という作品があるとしながらも、「1919年作、オイル?、大きさ不明、署名不明、所在不明」といった説明だけを記し、写真は載せていない。つまり、実物は確認されていなかったことになる。 ベルトラッキ氏は、これに目をつけた。「こういうのを見つけて、作ってしまうのがベルトラッキさんの手法なんです」と話すのは、高知県立美術館の奥野克仁学芸課長だ。 「彼は真作を模写して贋作を作るのではなく、有名作家の“存在が確認できない作品”を創り出すんです。カンペンドンクの作品なら、画集などを見て描き方を“自分のもの”にして、カンペンドンクの手法でまったく新しいものを創作する。 つまり模写ではなく、イチからの捏造なのです。だから、(絵が贋作だとすれば)本物の『少女と白鳥』がどのような作品なのか、今でも誰もわかりません」(奥野氏) 新しく生み出された疑いがある『少女と白鳥』は、1995年に世界最古の歴史を誇るオークションハウス(競売会社)「クリスティーズ」に出品された。 「富豪だった祖父が画商から買い保管していた」として出品したのは、ベルトラッキ氏の妻であった。 絵にはカンペンドンクが描いたことを示す偽造のステッカーも貼られ、本物と信じさせるための小細工が施されていた。しかし、クリスティーズが「贋作の可能性はない」と判断し、出品を認めた最大の理由は、その作品の完成度にあったとみられている。 「カンペンドンクの目録集を出版した美術評論家も、この絵を“本物”と判断しました。そのためクリスティーズのオークションカタログには、この評論家が『(本物だと)心から保証してくれている』と書かれています」(奥野氏) こうした状況から絵を疑う余地はなくなり、最終的に絵は落札され、高知に渡ることになった。 もしこれが贋作だとしたら、ベルトラッキ氏は専門家やクリスティーズまでもを騙せるほど、カンペンドンクの手法を完璧に習得していたことになる。