マイクロソフト、AI研究拠点「マイクロソフトリサーチアジア東京」設立 共同研究に取り組むホンダや日産も開所式に参加
米Microsoftと日本法人「日本マイクロソフト」(以下両社合わせてマイクロソフト)は11月18日、マイクロソフトの研究機関となる「マイクロソフトリサーチアジア(Microsoft Research Asia)」の東京拠点となる「マイクロソフトリサーチアジア東京」の開所式を東京都品川区のマイクロソフト日本本社で開催した。 【画像】グローバルに設置されているマイクロソフトリサーチの研究拠点 開所式には、マイクロソフトリサーチの幹部や日本マイクロソフト 代表取締役社長 津坂美樹氏、米国大使館や日本の産学官からのゲストが駆けつけて、東京に設立されることになるマイクロソフトリサーチアジア東京への期待感を表明した。 日本の産業界からは、ホンダの研究開発子会社の本田技術研究所、日産自動車、川崎重工業などが参加し、マイクロソフトリサーチとの共同研究などに関して説明した。 ■ AIなどの最先端の技術を開発するだけでなく、日本の伝統や文化などを取り込んで開発に役立てる役目を担う マイクロソフトリサーチは、1991年に米Microsoftが設立した研究開発機関で、WindowsやAzureといった同社の製品開発とは別に、より長期的な視点でさまざまな研究を開発する部署として設立された。現在マイクロソフトリサーチの開発拠点は9か国13拠点に置かれており、AIなどに関して最先端の研究開発が行なわれている。 マイクロソフトリサーチアジアは、アジア太平洋地域に特化した学際的、領域横断的な研究開発を行なうマイクロソフトリサーチの研究機関として1998年に設立された。マイクロソフトリサーチアジアは、よりアジア太平洋地域の各地の文化や伝統などに根付いた研究を行ない、それを本家のマイクロソフトリサーチにフィードバックする役割を担っており、今回発表されたマイクロソフトリサーチアジア東京では、日本の文化や伝統といったことも研究対象にして、それらをAIの研究開発などに役立てていく。 マイクロソフトリサーチアジアの研究開発拠点は、これまで中国の北京、上海、そしてカナダのバンクーバーの3か所に設立されており、いずれも中華圏および大きな中華コミュニティーがあるところに限られていた。今回、東京が加わったことで、その名称通りのアジアを象徴する研究開発機関になってきたことになる。 マイクロソフトによれば、マイクロソフトリサーチアジア東京では以下のような研究開発が行なわれるという。 ・Embodied AI(エンボディドAI):複雑なタスクをこなし、物理的および仮想的な環境での理解や対話ができるインテリジェントシステムの開発 ・Societal AI(ソシエタルAI):AIが社会に及ぼす影響を探求し、技術が人類の利益に役立つようにする ・ウェルビーイング&ニューロサイエンス:人間とAIのインターフェースを再構築し、AIを人間の福祉向上のために活用する ・インダストリーイノベーション:学際的かつ境界を越えた研究を通じて、現実のニーズを理解し、産業パートナーと協力してイノベーションを促進する マイクロソフトとしてはこうした研究を通じて、研究者を育成することも目標としており、マイクロソフトリサーチアジア東京で育成された研究者が世界で活躍できるような環境を実現していきたいと説明している。 ■ 産学官が連携して開発を行なう場となるマイクロソフトリサーチアジア東京 今回の開所式には、米Microsoftや日本マイクロソフトの幹部が登壇したほか、文部科学省や米国大使館などの官界、東京大学や慶應義塾大学などの学界、そしてホンダや日産といった産業界といった産学官からそれぞれゲストが参加。ステージでスピーチを行なったほか、看板の除幕式が行なわれるなどのセレモニーも行なわれた。 日本マイクロソフト 代表取締役社長 津坂美樹氏は「本年の初めに4つのお約束をしました。1つ目が4400億円相当の日本への投資、2つ目が330万人のリスキリングの取り組み、3つ目がサイバーセキュリティのルール策定を一緒にやらせていただくこと、4つ目がマイクロソフトリサーチアジア東京の開設でした。高齢化が進展し労働人口が減っていくという課題を持つ日本で、ユニークなソリューションを見いだしていくことを期待しています」と述べ、マイクロソフトリサーチ東京の開設により、高齢化する日本の中でテクノロジーによる諸問題の解決が進展していくことに期待感を表明した。 ■ ホンダはロボティクスに応用できるエンボディドAIの開発を、日産は電池リサイクルなどをAIで加速する技術の開発を推進 産業界、その中でも自動車メーカーを代表して参加したのは、ホンダの研究開発子会社になる本田技術研究所と日産自動車の2社だ。両社とも、すでにマイクロソフトリサーチアジアとの共同研究を進めており、両社の代表者がそれぞれの研究内容などに関して説明した。 本田技術研究所 常務執行役員 小川厚氏は「ホンダはASIMOの開発などで最先端の開発を続け、ロボットの応答性や手の動きを改善するなどさまざまな研究開発を行なっている。その実現のためにはエンボディドAIの開発が非常に開発だと考えており、同時に人間の手のように強い筋肉としなやかな動きを再現したいと考えている。ホンダはそうしたハードと制御管理にたけており、マイクロソフトはAIにたけており、両社が協力することでイノベーションが加速できると考えている」と述べ、ホンダがASIMOで実現したようなロボット開発をさらに進化させるために、マイクロソフトリサーチアジアと共同開発を行なっていると説明した。 日産自動車 エキスパートリーダー 大間敦史氏は「日産とマイクロソフトリサーチアジアは、EV用バッテリのリサイクルプロセスの開発などでAIの活用に取り組んでいる。この共同開発では、毎月一度ミーティングを行なって意見交換をしているほか、チャットでも研究者同士がやりとりをしており、日産側の研究者はマイクロソフト側の研究者がデータ処理に関して深い知見を持っていることに感心している。すでに両社の研究開発の成果は香港でのカンファレンスで発表しており、成果が出始めている。まだ現時点では取り組みは始まったばかりだが、今後ステップ・バイ・ステップで取り組みを進めていきたい」と述べ、今後さらに両社の共同開発を加速していきたいとした。 マイクロソフトリサーチ 事業本部長 ピーター・リー氏は「マイクロソフトは日本の自動車メーカーと長い間、実業の分野で協力してきた。それに対してマイクロソフトリサーチアジアでの取り組みは、そうした今必要な技術だけでなく、遠い将来を見据えた技術を一緒に開発していく取り組みとなる」と説明し、ホンダや日産との取り組みが長期的なものであることを強調。パートナー企業と開発を進めていけることがマイクロソフトリサーチアジアの研究開発の特徴だと説明した。
Car Watch,笠原一輝
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