ムファサとスカーの運命は必然だった? 尾上右近&松田元太が語る『ライオン・キング:ムファサ』
■ムファサの運命は必然だった?
右近:とてもありました! いきなりほえたりするので、ほえるバリエーションも必要で。 松田:あと「息を音にする」の感覚が難しかったです。マイクにバサッと息を吹きかけても割れちゃうので、ちょっと外さなければいけなくて。台本の指示とタイミングを合わせるのも難しかったです。技術面でも勉強になりました。 右近:役として歌うことも難しかったですね。みんなが歌いたくなるような歌なんですけど、しっかりと音程が難しい。ムファサが感じる旅のワクワクと埋まらない孤独の両方が見える感じでというディレクションもあり、その関係性の説得力を持たせるのは難しかったです。 ――二人で歌うムファサとタカの“兄弟の絆”を歌った劇中歌「ブラザー/君みたいな兄弟」もステキでした。 右近:めちゃくちゃ良い曲です。いろんな人に共感してもらえると思うし、ムファサとタカの兄弟関係の絆の深さをすごく感じられると思います。幸せな気持ちになれるかもしれないし、一方で切ない気持ちにもなるかもしれない。 ――右近さんは、アニメーション版(1994)&超実写版(2019)の『ライオン・キング』でムファサ王を演じた大和田伸也さんから役を引き継いだわけですが、役作りで意識したことはありますか? 右近:何を受け継ぐのかというのは、やり方や声の出し方など技術的なことだけではないような気がしています。歌舞伎もそうなのですが、伝えようとする気持ちや大切に磨き上げている様子を、後輩や子どもたちが見て、後に続く人たちが「僕なりの形はこうだ」と自分たちのやり方で突き詰めていく伝統の村で生きている中で、何を伝統として受け継ぐのだろうと考えた時、それは愛情や情熱だと思うんです。なので今回の大和田さんからも、伝統を受け取らせていただいた感覚に近いです。 とはいえ、大和田さんのムファサにつながるようなイメージは自分の中のどこかに持っていました。立派な大人でも若い頃は今とは違ったりすると思うのですが、人生ってそういうもので、そのプロセスを見せるのが、自分のムファサの役割だと思っています。未完成ながらも完成形につながっていく点線が見えるようなイメージで、自分なりのムファサを演じました。 ――松田さんは声優初挑戦ではありますが、タカからヴィランのスカーに変わっていくグラデーションを表現しなければいけない難しさがあったと思います。どのようなアプローチを取ったのでしょうか。 松田:スカーになる瞬間ももちろん大事なのですが、スカーじゃなかったときの時間を改めて考えて、「タカはこういうライオンなんだろうな」とか「今こういう思いで過ごしているんだろうな」と自分の中で解釈しながら声に乗せていく作業をしていきました。その中で、ポロッとスカーの片りんが見えたり、グツグツと煮詰まっていくような恐ろしさを感じさせる部分もあるので、徐々にスカーと化していく感情の変化を大切にしました。スカーになる瞬間は命がけです。 ――必見ですね。さて、この物語の後には二人に悲劇の運命が待ち受けているわけですが、演じてみて、この結果は必然だったと思いますか? 避けられるルートがあったと感じますか? 松田:う~ん。そんな未来があったかもしれないですが…ああいう運命だったんだと思います。 右近:こういうお仕事をさせていただいているのも、縁やタイミングがあるように、自分だけで決められないものってきっとあると思います。それを多分、人は運命と呼んでしまうのではないでしょうか。そういう意味ではムファサとスカーの結末も運命なんだと思います。いくら自分たちが歩み寄ろうと思ったり、関係を良くしようとコミュニーケーションを取っても、思い通りにならないことってあるので、二人の結末はそうならざるを得なかったんじゃないかなと思います。 (取材・文:阿部桜子 写真:小川遼) 映画『ライオン・キング:ムファサ』は全国劇場で公開中。