がれきから回収した被災仏壇、お返ししたい…ピーク時6500基を無償保管した「浜屋」に残る65基
阪神大震災の被災者から仏具販売大手「浜屋」(本社・兵庫県姫路市)が預かった仏壇65基が、引き取られないまま倉庫に置かれている。従業員らは「様々な思いが詰まった仏壇を返したい」と連絡を待ち続ける。(阪神支局 中山真緒)
がむしゃらに運び続けた
仏壇の無償預かりは、震災当時の社長で2016年に76歳で亡くなった浜田博邦さんが発案した。同社は県内7店舗で仏具が倒れるなどの被害があったが、社員は全員無事だった。 震災直後、家を失った人の多くが、仏壇にあった故人の骨つぼや位牌(いはい)を避難所の床に置いていた。一方、倒壊家屋では、がれきとともに仏壇も撤去されかねない状況だったという。 胸を痛めた浜田さんは、仏壇の預かりを決定。間もなく、新聞広告などで告知した。本社の電話は鳴りやまなかった。 トラックを使い、社員総出で約7000戸の被災者宅を回った。ピーク時は約6500基を預かり、自社の置き場がいっぱいになると貸倉庫と契約して運び込んだ。同時に、仏壇が必要な被災者に対し、約4500基を無償で提供した。 仏壇を運び出した直後に自宅の一部が崩れるなど危険と隣り合わせの作業だったという。エレベーターの止まったマンション15階から階段で降ろしたこともあった。営業本部長の花尾文彦さん(64)は「仏壇は家族の中心にあるべきもの。生活再建後にまた置いてもらえるように、がむしゃらに運び続けた」と話す。
マンションには大きすぎて…
ほとんどは数年以内に、持ち主に引き取られた。ただ、引っ越し先が手狭だったり、生活再建に時間がかかったりして、長期間預けた人も少なくなかった。神戸市中央区の杉田利子さん(93)も、そのひとりだ。 震災で自宅に住めなくなり、転居先に置く余裕がなく、仏壇を預けた。震災前に亡くなった夫・忠賢さんの位牌はタンスに置き、手を合わせてきたという。 2016年、自宅があった場所に建ったマンションへ引っ越す際に引き取ろうとしたが、仏壇のサイズが大きく新居には収まらなかった。浜屋に連絡して仏壇を供養(処分)してもらい、小ぶりのものに買い替えた。杉田さんは「被災してから、ずっと仏壇のことは気になっていた。長年、大切に預かってもらって感謝しています」と話した。
数年ぶりの問い合わ せ
残る仏壇65基は、持ち主の名前、電話番号を記した預かり書が貼られ、兵庫県西宮市の倉庫に置かれている。数年に一度、持ち主に問い合わせているが、連絡がつかないことも多い。 それでも昨年12月、「仏壇を預かってもらっていないですか」と数年ぶりに問い合わせがあり、確認を進めている。花尾さんは言う。「仏壇はただの家具ではなく、人の思いが詰まったご先祖様の家。時間はかかっても持ち主に返したい」 仏壇の返却に関する問い合わせは、浜屋(0120・1616・94)で受け付けている。