「彼女が言うんだ。もう大丈夫だって」優しく哀しい死刑囚が見た夢
死刑囚との対話...心神喪失と死刑執行
74年に警官殺しで有罪になったアルビン・フォードにも会った。彼と話すのは難しかった。元気かと尋ねると「R2ポープ156デスティニー」といった訳の分からない言葉が返ってくる。だがフロリダ州当局は、アルビンの精神状態は死刑の執行を妨げるものではないと判断した。 アルビンの死刑が執行される直前、連邦最高裁が介入して差し止めた。彼の事件は連邦最高裁の「フォード対ウェインライト判決」につながり、心神喪失者は死刑にできないという判例になった。91年、アルビンは37歳で自然死した。 原則として、私は知り合いの死刑囚の刑執行を見届けることはない。友人が処刑されるのを見なくてはならないなら、この仕事はできない。 しかし、ウィリー・ダーデンは私にこう迫った。「ジョー、俺の最期を見届けてくれ」。私はしぶしぶ了承した。 死刑執行室に隣接した部屋では椅子に座ることもできたが、私は彼に見えるよう立つことにした。看守たちに連れられてきたウィリーは、手かせと足かせをされていた。看守らは彼を椅子に連れていき、手かせを外して座らせた。 椅子に押し込められるとき、ウィリーの首は背もたれに強く打ち付けられた。彼はうずくまったが、私に向かって親指を立て、大丈夫だと伝えてきた。看守らはウィリーの胸と脚と腕を革ベルトで締め、顔をフードで覆った。 ウィリーは手を上げ、私にさよならと手を振った。約2100ボルトの電流が3回流れ、彼は感電死した。 システムに腐臭が漂う もう二度とこんなものは見たくないと思っていた。ところが後に、テネシー州のある死刑囚と会うことになる。2018年10月、83年に2人の男を射殺したエド・ザゴルスキーが刑の執行を控えており、私は彼のもとへ行った。 その日が近づくと、奇妙な儀式が始まる。エドの健康を確認するため、看守が毎日やって来る。聴診器を胸に当て、採血をして薬を飲ませる。皮肉にも、彼らはエドをすぐに殺せるよう、彼に問題がないことを確認したかったのだ。 エドの最後の日に私が行くと、彼はなぜか興奮していた。「あんたにローリーのことを話したくてね」。エドは若い頃、ローリーという女性を愛したが、うまくいかなかった。エドの収監中、弁護士がローリーの死去を知り、彼女の墓の写真を持ってきた。 「ゆうべ、死後の世界がどんなものかを教えてくれる夢を見たよ」。エドは、ローリーと一緒に緑の芝生の上に立っている夢のことを話した。死刑囚は監房で、常にコンクリートの上にいる。「彼女が言うんだ。もう大丈夫だって」 私はエドに、それは夢ではなく、神が与えてくれた未来の「ビジョン」だと言った。彼はそのビジョンを電気椅子にまで持っていった。最後の言葉は「さて、始めようか」。エドは心の中で、手を伸ばしてローリーの手をつかもうとしていただろう。 欧米で死刑制度があるのはアメリカだけだ。EUは死刑廃止を加盟の条件にしている。ヨーロッパから見れば、私たちはとんでもない野蛮人だ。 私たちがつくり上げたシステム全体が、ぼろぼろに腐食している。刑務所に関わる全ての人が腐っている。内側からむしばまれている。 この国の刑事司法制度に、正義は存在しない。
ジョー・イングル(牧師)