持田 譲二（ニッポンドットコム）

長崎・佐賀両県にまたがる伊万里湾に鷹島（たかしま）という小さな島がある。この付近の海底から、ここ15年近くにわたり、蒙古襲来の跡である元の軍船など遺物が数多く見つかっている。2回目の侵攻「弘安の役」当時のモノだ。海底遺物が物語る戦いのありさまとは──。

東路軍と江南軍の合流失敗

鷹島2号沈没船俯瞰（ふかん）図（琉球大学、松浦市教育委員会、撮影・編集：町村剛）

「文永の役」（1274＝文永11＝年）から7年後。皇帝フビライ・ハンの号令の下、元軍は再び日本に襲いかかってきた。1281（弘安4）年のことで、「弘安の役」と呼ばれる。 前回の侵攻で日本を攻めきれなかった元は、戦力強化に向け2方面から船団を進軍させてきた。一つは、元の属国である朝鮮半島の高麗から出発した「東路」軍。もう一つは、元が滅ぼした中国大陸の旧南宋から来た「江南」軍だった。両軍は壱岐（いき）に集結後、九州に上陸し要衝の大宰府を攻めるという青写真を描いていたようだ。

東路軍と江南軍のルート

ところが、東路軍が同年5月3日に出発したのに対し、江南軍は1カ月半遅れの6月18日に出発するなど、統率が取れていなかった。東路軍が6月上旬には博多湾に到着しても江南軍は本国を出発さえしておらず、なかなか姿を現わさなかった。両軍が合流していれば、博多湾は「文永の役」当時の5倍近い4400隻の軍船で埋め尽くされたはずと言われる。そうなれば、日本は耐えられただろうか。 実際は遅れを取った江南軍は博多湾に行き着くことはなく、伊万里湾にようやくたどり着いた後、台風に遭って消息を絶ったと言われている。

海底を棒で突いて回る

元軍の船が見つかった鷹島神崎港沖を望む（筆者撮影）

それから8世紀近い時を経て、沈没した元軍の船がようやく見つかった。 伊万里湾口に位置する鷹島の神崎（こうざき）港では、かねて漁師の網につぼや武具など、元軍の遺物らしき物が引っ掛かることがあった。さらに1994～95年の港の改修工事で大量の遺物が出てきたことから、元軍の船発見に向けた機運が高まり、2005年から本格的な海底考古学調査が始まった。