<春風を待つ―センバツ・宇治山田商>支える人々 見守る「第二のお父さん」 3選手下宿のアパート管理人 /三重
◇食事を提供、看病や助言も センバツに出場する宇治山田商の1年生選手3人は、自宅が遠く通学に時間がかかるため、学校がある伊勢市内のアパートで下宿している。親元から離れて生活する彼らにとっては、同じ釜の飯を食べる仲間に加え、「第二のお父さん」と慕うアパートの管理人、服部浩之さん(60)の存在が大きな支えだ。【原諒馬】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 下宿しているのは、南伊勢町出身の河村蒼太内野手▽四日市市出身の堀木総志外野手▽大紀町出身の加藤一路二塁手――の3人。アパートには、周辺の別の高校や大学に通う生徒・学生ら9人も下宿しており、時折笑い声が外に漏れるほどにぎやかだ。 服部さんはアパートに併設する喫茶店のオーナーでもある。下宿生らに店で夕食を提供するなどして約30年間にわたって生活を支援している。 加藤と河村は昨年4月、堀木は同年12月から入居している。各部屋には風呂やトイレ、洗濯機が備わるため、自室の掃除や洗濯は全て自分でやる。加藤は「最初は大変だった」と話すが、宇治山田商では観察眼を養うため、ゴミが落ちていれば拾うよう指導され「部屋が散らかっていたら気持ち悪い感覚になって落ち着かなくなるから」と、自室はまめに整理整頓している。 練習を終えて下宿に戻った3人にとって、喫茶店での夕食は心が休まるひとときだ。服部さんが作ったご飯を食べてから、店内で談笑する。9日には、店に届いた野球雑誌のセンバツ特集号を開き、昨秋の東海大会準決勝などを振り返りながら「あの試合は本当にハラハラした」などと盛り上がっていた。 伊勢市出身で「下宿生の子たちの力になれることが、地元への恩返しになっているのかもしれない」と語る服部さん。野球経験はないが、それでも毎日のように会話を交わす下宿生一人一人のことはよく分かっているといい、良き助言役でもある。 河村は1月中旬から、毎週末に行う実戦形式の紅白戦で「マジで打てない」とスランプに陥っていた。相談された服部さんは、考え過ぎると体がうまく動かなくなる性格を指摘し、「普段通りで良いよ」と助言した。気持ちが楽になった河村は奮起し、2月には再び快音をグラウンドに響かせるようになっていた。 服部さんは毎朝午前4時半に起床して、喫茶店で3人を含む下宿生らの弁当も作っている。体を大きくしたい加藤には、ご飯の量を増やして体重を半年で5キロ増の60キロにさせた。堀木が腹痛を訴えた時は、味の濃いものや、卵料理を入れるのを控えるなど、献立には気を使う。 3人に異変がないかにも気を配っている。毎朝午前6時ごろに喫茶店の前で素振りを日課にする堀木を、開店準備をしながら窓からこっそり見届けていたが、ある日、堀木が素振りをしていないことに気づいた。「大丈夫か」。部屋を訪れると風邪をひいており、看病した。「あまり干渉し過ぎないようにしている。それでも、何か力になれることはないかと考えている」という。 3人を「息子のような存在」と話す服部さんにとって、甲子園出場は「自分のことのようにうれしい」と喜ぶ。「彼らが入居したときに『僕を甲子園に連れて行ってな』と言っていたので、まさかこんなに早く実現するとは思っていなかった。甲子園でも頑張って勝利をつかんでほしい」と活躍を心待ちにしている。 〔三重版〕