飛ばない金属バットで高校野球が激変? センバツ出場校に聞いてみた
高校野球が大きく変わるかもしれない。今季から低反発の新しい金属バットが導入されるからだ。18日開幕の第96回選抜高校野球大会を前に、センバツ出場校に飛ばない金属バットの感想を聞くと、意外な答えも相次いだ。 【写真まとめ】2023センバツ 躍動したドラフト指名選手たち ◇高校野球で木製バットを使用? 史上最多タイの春5回目の優勝を狙う大阪桐蔭の西谷浩一監督は、バットの変更が試合に与える影響について、こう口にする。 「高校野球が明らかに変わると思う。打ち勝つのは少なくなるかもしれない。ロースコアの試合は間違いなく増えるでしょう。(延長十回から始まる)タイブレークもそう。新しいバットにうまく対応できたチームが上に残っていくと思う」 昨秋の公式戦でチーム打率3割9分3厘を残した愛工大名電(愛知)の倉野光生監督も「これまで本塁打だった打球が外野フライ、フェンス直撃という感じになる。『パワー野球』を目指すスタイルは、ここ2、3年は停滞するだろう。機動力、スモールベースボールが大事になる」と指摘する。 体感では具体的にどれぐらい違うのか。北海(北海道)は他校より一足早く、昨秋の明治神宮大会で新金属バットを使用した。大石広那(こうだ)選手(2年)は「今まで7、8割の力で打っていたものが、10割の力を出さないと同じ飛距離が出ない」。神村学園(鹿児島)の小田大介監督も「飛距離は5~10メートルは違うかなと感じる」と印象を語る。 出場校からは「(飛距離などは)バットの芯を食えば変わらない」との意見も多く聞かれた。裏を返せば、芯を外したら打球の速度や飛距離が従来よりも低下するということだ。これまでのバットは、詰まってもパワーがあればある程度の力強い打球を放つことができたが、それとは違う。力よりも芯で球を捉える技術に重きが置かれ、強打者の条件も変わりそうだ。 当初は新バットの扱いが難しいため、重さ900グラム以上の制限がなく、しなる感覚を得やすいという木製バットの使用を推す声も聞かれた。敦賀気比(福井)の西口友翔(ゆうと)主将(2年)は「最初は木製の方が振りやすくて、どちらにするか結構悩んだ。センバツでは木製で出場する選手もいると思う」と語る。 ただ、木製バットは折れる可能性があり、経済的な負担も大きい。そのため、多くの関係者は「金属バットの使用がほとんどになる」と予想する。 ◇打球の平均速度、初速は3%以上減少 そもそも、なぜ新しいバットが導入されたのか。最大の理由は投手らの打球の受傷事故を防ぐためだ。 日本高校野球連盟は2022年、反発性能を抑えた新基準の金属バット導入を決めた。22年度から2年間は移行期間で、今春から完全移行となった。 新バットは最大直径が従来より3ミリ短い64ミリに縮小された。900グラム以上の重量制限は維持したが、球の当たる部分を3ミリから4ミリ以上に厚くすることで反発性能を抑えた。打球の平均速度、初速がともに3%以上減少するという。 高校野球では1974年に金属バットが導入されて以降、プロなどに比べて打者優位の「打高投低」が顕著となった。2001年には重さ900グラム以上、70ミリだった最大直径は67ミリに基準が変更された。打球速度を抑えるためだった。 だが、それでも選手たちは重いバットに適応した。科学的なトレーニングが進み、選手の筋力が発達して打球の力強さが増す傾向にあった。投手らを守るには、新たな対策を講じる必要があった。 ◇全員で内野手守備の奇策も? 新バットの影響は攻撃だけにとどまらない。大阪桐蔭の徳丸快晴外野手(2年)は「今までなら抜けた打球が(捕球できるかどうか)勝負できたり、逆に今までなら捕球できた打球が間に落ちたりする」と守備面での変化を口にする。守備位置が浅くなるため、田辺(和歌山)の田中格監督は「軟式野球みたいにライトゴロが増えるかも」と予想する。 バッテリーの配球も変化する可能性がある。長打のリスクが減るので、大胆にストライクゾーンで勝負しやすい。 最速140キロ台後半の直球が持ち味の高知・平悠真投手(2年)は「内角を突いておけば、そうそう打たれない」と強気に出る。報徳学園(兵庫)のエース、間木歩投手(2年)は「(バットの)芯を外したら何とかなるという考え方もある。有効であれば、芯を外すための投球も考えてみたい」とイメージする。 速球派、技巧派などタイプによって配球は違うが、乱打戦は減りそうだ。さらに、ロースコアが増えれば、投球数の減少や試合時間の短縮につながる可能性もある。 珍しいプレーや極端な作戦も見られるかもしれない。熊本国府の山田祐揮監督は点が入りにくい展開を想定し、「攻撃で1死三塁の場面では、三塁走者にギャンブル気味にスタートを切らせて、ライナーでの併殺はしょうがないという思い切った作戦もありえる」と構想を描く。 京都国際の小牧憲継監督は「奇策」の実行を示唆する。「外野フライを打たれると試合が終わる場面では、外野手も黒土の中に入れて全員で内野を守ることも考えてみたい」。こうした場面は外野手が浅く守るのが定石だが、飛ばないバットだとさらに浅く守ることができ、野手の間を割らせないなどの利点につながりそうだ。 今年は金属バット導入から50年、センバツも大会創設から100年の節目を迎えるが、変革は起こるのか。走攻守すべてに目が離せない。【センバツ高校野球取材班】 ▽新金属バットについて、センバツ出場校の主な感想 八戸学院光星(青森)・仲井宗基監督「(新バットは)芯を外したら、見るも無残な打球になる」 報徳学園(兵庫)・大角健二監督「前は『ある程度雑にでも振れ』くらいのチームもあったと思う。(新バットで)芯を意識して、良いスイングになっていくのではないか」 阿南光(徳島)・高橋徳監督「内に投げると引っ張られる危険性がある。やはり外角低めが安全だと思う」 明豊(大分)・川崎絢平監督「序盤なら1点をあげてもいいという守りをしていたのが、序盤から1点もやらない守りをするかなど考えないといけない」 京都外大西・上羽功晃監督「うちは元々、長打が出ないので作戦面で変えることはないし、ウエルカムです」