ランチビールに大好きな中華を平らげ「おかわり!」…“奇跡の1枚”でバズり、白目ヘン顔もこなす橋本環奈が25歳で「紅白」を手際よく仕切れる納得の理由
待機中も「女社長」のようだった
そして、あっという間に豹変芸が名人芸のようになった頃、『十二人の死にたい子どもたち』(19年)では、徹頭徹尾クールな役を演じた。自身に絶望して死ぬために集まってきた10代の子どもたちのひとりであるリョウコは、死にたいと思うのが不思議に感じられる人気女優の役である。でも「大勢の大人が時間とお金をかけて作った商品よ!」と自虐する。 このとき、オフィシャルライターとして撮影現場を取材していた筆者は橋本環奈にインタビューをしたのだが、リョウコのように大人にプロデュースされるままになっている状態と自身はまったく違うようだった。若い俳優は、どうしても演技が未熟な分、自分に似た感じの役で不足部分を埋めることが多いが、橋本は自分と違うパーソナリティでも躊躇なく演じることができるようだ。
同じ現場で筆者は、撮影の合間に監督のベース(撮影中、監督や記録、現場編集、CGスタッフなどがいる場所で、モニターがあるので俳優も撮った画を見に訪れる)で待機している橋本を見たとき、たったひとりで凛と座っていて、どこかの事務所の社長がいらっしゃるのかと間違えたことがあった。橋本はとても小柄なのだが、ものすごく堂々としたオーラを放っていた。 そのときの彼女は、大人の言うがままになっているリョウコの面影はまったくなかった。以来、私のなかでは橋本環奈は女社長のようだというイメージなのである。そういう意味では『セーラー服と機関銃』の組長の役は彼女にぴったり。彼女が昨年の『第74回紅白歌合戦』で司会として、現場を手際よく仕切っていたのもナットクなのだった。
今年の紅白ではどんな姿を見せるのか
橋本環奈の司会の安心感は、その瞬間、最適なことを選んで動くことができる判断能力の高さゆえであろう。俳優のなかには、感情のつながりや根拠が気になりすぎて体が動けなくなってしまうようなナイーブなタイプもいて、それはそれでいいのだが、橋本はそこに重きを置いていないように見える。 朝ドラこと連続テレビ小説『おむすび』のヒロインに抜擢されたのも、この手際よさが理由のひとつであろうと推察する。朝ドラの撮影のスケジュールがパンパンで、当然ながら順撮りなど望めず、同じセットを使うシーンを先々の分までまとめて撮るようなやり方をしていることは、ヒロイン経験者がよく語っていることだ。 そういう状況だといちいち感情の繋がりや、物事の整合性を気にしていたらやっていられない。その瞬間、瞬間で、最大のパフォーマンスを発揮することが重要で、それを橋本環奈なら無理なくできる。実際、そうなっていると思う。ただ、あまりにも手練れ感があり過ぎるのが、制作側としては誤算だったのではないかという気もしなくはない。 朝ドラを見ていると、ハードなスケジュールや朝ドラヒロインの重責への心の震えがときに、物語の叙情となって視聴者に訴えかけてくるようなことがあるものなのだが、橋本環奈は常に堂々としていて揺らぎがないのである。 今年5月に舞台『千と千尋の神隠し』でロンドンデビューも飾り、ますます自信とスキルがアップしているようにも見える。 どのシーンも「奇跡の1枚」のように、どこから見ても完璧に整った正解の演技の連続であることは称賛に値する。だが、B’zも『おむすび』の主題歌で歌っているではないか、「震えたっていいよ」と。常に完璧でなくていい。たまにはすこし揺らいでもいい。そんな橋本環奈も見てみたい。 もちろん、今年で3度目となる(快挙である)紅白の司会では、決して揺らがず、テキパキとした、いつものスキルを存分に発揮してほしいけれど。
木俣 冬