運動科学の第一人者が発見……大谷翔平とイチローの身体に備わった「知られざる共通点」
身体がゆるゆるの状態で驚異的なプレーを可能にするある「能力」
どのくらいゆるんでいるかというと、たとえばアスリートでも何でもない一般の人が、いまこの瞬間に同じような身体の「ゆるみ」を手に入れたら、とても立っていられなくなる……というくらい、身体がゆるゆる・トロトロに、それこそ溶けてしまうほどゆるんでいるのです。 中綿が少なめの、人型の大きなぬいぐるみを想像してみてください。そのぬいぐるみの、頭のてっぺんを指でつまんでぶら下げて、直立させてみましょう。もちろん手を離したらクターッと潰れてしまいます。それこそ身体が「タラーン、クターン」とした状態ですが、大谷はまさにそんな立ち方をしていたし、いまもしています。 身体がゆるんだ状態で立ち、そして驚異的なプレーができるのは、ある「能力」が備わっているからです。 みなさんもどこかで一度はお聞きになったことがあると思いますが、その能力とは脱力してゆるみきっている身体をまっすぐに立たせるための「装置」ともいえるもので、スポーツ界ではよく「軸」と呼ばれています。 「体軸」と表現されることもあり、日本の伝統的な武術や芸能の世界では「正中線」、クラシックバレエでは「センター」、英語では「axis」と翻訳されますが、私はおもに「センター(軸)」という表現を使うことにしています。 (厳密には「センター」と「軸」は使い分けるべきですが、ほぼ同義と捉えても以下の記事は理解できます。したがって、以下では「センター(軸)」と総称し、文脈に応じて適宜、より読者のイメージを喚起できそうなほうで表記します) センター(軸)が強烈に発達していれば、全身の筋肉の力を抜き切ってゆるゆるになっていても身体を絶妙なバランスで立たせておくことができ、ひとたび動けばとんでもなく優れたパフォーマンスを発揮できます。大谷には、そんな天性の能力があるのです。 この記事は後編【大谷翔平はいかにして「動じない心」を手に入れたのか……運動科学の創始者が独自の身体論で読み解く「超一流」のメンタル 】に続きます。
高岡 英夫