10年後には「教室は時代遅れ」で「家庭教育が主流」に…フランス大統領顧問も務めた「知の巨人」が見る教育の未来とは(レビュー)
パリ五輪に知の継承がなかった。五輪開会式で、芸術の都は、知性なきエンタメ陳列場と化していた。そのパリから、「知の巨人」と称されるジャック・アタリが『教育の超・人類史』を発表していた。 ホモ・サピエンスの登場から現代を経て未来まで教育をテーマにして総覧する。しかも定評ある未来予測もついている。 動物にも知の継承が見られるが、人は言語・文字・印刷技術によって格段に効率的な知の継承、つまり教育ができるようになった。しかし義務教育としてすべての人が教育を受けられるようになったのは、100年を超えた位で、人類史から見てほんのわずかの時間である。 2035年には小学生人口が2023年比で36・7%減少するとされる(河合雅司『縮んで勝つ』小学館新書)日本は「まもなく子供のいなくなる国の過酷な競争」として、近年の教育動向が紹介されている。 世界の人口動態の影響とテクノロジーの進歩で、「教室は時代遅れの産物になり、生徒一人一人のニーズに合った新たな教育法が開発される」という。知識の習得のための記憶ではなく、膨大なデータを取捨選択するための記憶が必要とされる。学校での知識の伝達の時間が格段に減り、16歳までが家庭と学校、16歳以降は企業が教育を担う。教師が電子で生徒と交信して家庭教師のようになる。「門前の小僧習わぬ経を読む」の如く、学習環境の整備は今後も不可欠だ。 「習わぬ経」を自習自得し、生徒が生徒のために行う授業、逆転授業が多くなる。学校ではなく、家庭で教育するホームスクールが世界的に主流となるとしている。「門前」で学校を選ぶだけでなく、保護者も教師にならなければならない。 ホモ・サピエンスは自ら生み出した人工物をコントロールし続けなければ絶滅する。自滅的な核戦争、人工知能の暴走の前に、その危険性を示しつつ、私たちへの提言と実践方法も説かれているのが嬉しい。教育によってさらに人類が進化し、「ホモ・ハイパーサイエンス」になることにアタリは希望を見出している。 知の巨人は『21世紀の歴史』で、今世紀を動かすのは、利他的なトランスヒューマンと環境調和重視企業の二つであるとした。それらをどのように教育で創ればいいのか、答えを本書に求めたが、甘かった。知を継承して「自分で考え実践せよ」と言わんばかりである。教育に携わる私にとっては、覚悟を求められる書となった。 [レビュアー]金子一也(鈴鹿享栄学園理事) かねこ・かずや1967年三重県生まれ。松下政経塾塾頭を経て現在、鈴鹿大学教授、ハリウッド大学院大学教授、鈴鹿享栄学園理事。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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