【サーキット編】イギリス人レーサーがスズキGSX-8Rを斬る「GSX-R不在の時代だが、8Rでも存分にサーキット走行を楽しめる」
もちろん、GSX-8Rを走らせるシチュエーションの大半は、サーキットではなく一般道で、十分なエンジンパワーと扱いやすい車体特性は街乗りやツーリングに合わせて設計されている。ライディングポジションはさまざまな体格のライダーにとって快適だし、フルカラー液晶メーターに表示されるあらゆる情報は見やすく、操作も簡単だ。 スマートフォン連携機能がなかったり、各種電子制御デバイスがバンク角応答式でないことに不満を感じる人もいるかもしれないが、GSX-8Rはベーシックな性能と機能を必要十分に盛り込んだバイクだ。平日は通勤で走らせ、休日は荷物をたくさん積んでツーリングへ出かける、というように一年中乗り続けられるバイクなのである。 高速道路を長時間走り続けるにはスクリーンがやや低いが、ミラーの視界は広くて見やすいし、シートの出来がよく長時間連続走行でも快適だ(ただしタンデムシートの快適性は不明だ)。 カタログスペックの燃費はWMTCモードで23.4km/Lで、単純計算なら航続距離は327kmになる。テスト車を返却した段階での燃費は20km/Lを下回ったが、必死でプッシュして走ったのだから当然だろう。
スズキ GSX-8R総合評価
GSX-8Rは、車体の大部分をネイキッドのGSX-8Sと共有しているため、特徴は必然的に似ている。エントリークラスのスポーツバイクとは思えない走行性能を持ち、快適性、寛容性、そして使い勝手のよさに優れている。一般公道でのスポーティな走りは魅力的だし、過度な期待をしなければサーキットにおいてもスポーティな走行性能を存分に堪能できる。 サーキット走行ではスピードが上がるにつれて、最低地上高の低さやABSの介入の早さがネックになる。車重があるうえにホイールベースが長いため、ラップタイムはヤマハ YZF-R7やアプリリア RS660のほうが速いだろう。しかし快適なライディングポジションとトルクフルなエンジンを備えたスポーツバイクとして、ライバルたちに決して負けていない。 数年前まで、手頃な価格でエキサイティングなミドルクラススポーツバイクはほとんどなかった。しかしここ数年で各メーカーから魅力的なバイクが続々と登場しており、今や人気カテゴリーとなっている。 おそらくはカワサキ Z650やスズキ SV650をオーナーたちがカスタムしはじめたことで認知度が高まったカテゴリーだと思うが、GSX-8Rの登場はこのカテゴリーの素晴らしさを如実に物語っている。 実際、GSX-8Rには強烈なライバルがひしめいている。 アプリリア RS660は車重が22kgも軽く(183kg)ピークパワーも大きい。さらに6軸IMUを搭載することで電子制御デバイスも充実している。GSX-8Rの車重が205kgであることを考えれば、ヤマハ YZF-R7よりはホンダ CBR650R(208kg:並列4気筒)に近いといえるが、トライアンフ デイトナ660(201kg:並列3気筒)、カワサキ ZX-4RR(189kg:並列4気筒)、カワサキ ニンジャ650(194kg:並列2気筒)あたりまで視野を広げると、魅惑のスポーツバイクがひしめく活況にクラクラしてしまう。 スポーツバイクの世界に足を踏み入れるには最高の時代なのだ。 あとは車両価格が重要な選択基準になるが、GSX-8Rはヤマハ YZF-R7とほぼ同じで、トライアンフ デイトナ660よりわずかに高い。 いずれにせよ、私たちの世代が1990年代に2ストローク250ccや4ストローク400ccのスポーツバイクに夢中になったように、現代の若い世代がGSX-8Rをはじめとするミドルクラススポーツに魅了されることを期待してしまう。 試乗レポート●アダム・チャイルド 写真●ジェイソン・クリッチェル/スズキ まとめ●山下 剛