観光客は「富裕層」か「それ以外」か...《失敗を恐れる》日本の観光ビジネスは「海外富裕層ファースト」のニセコに学べ
今や世界中から富裕層がこぞって訪れる冬の高級リゾート地となった北海道ニセコ。どうやってニセコはインバウンドをものにしたのか。海外の富裕層を取り込む外国資本の戦略、日本の観光に足りていないものとは何なのか。ニセコの成功の背景を、リゾート地・富裕層ビジネス・不動産投資の知見をもつ筆者が、これらの謎をひも解く。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション *『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(高橋克英著)より抜粋してお届けする。 『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』連載第53回 『「建設に約30億円」...!?ニセコ町に差し迫るインフラ問題、「ニセコ市」になれないワケとは』より続く
観光リテラシーが高い富裕層
海外を含めた富裕層の特徴として、金融リテラシーが非常に高いことと同様に、観光リテラシーも非常に高いことが挙げられる。 実際に保有金融資産の投資経験があり、株式、不動産など各自に得意分野や思い入れのある分野がある場合も多い。同じように、実際に世界各国の観光地やリゾート地に滞在し、さまざまな体験や経験を通して、観光・レジャーマーケットにも精通している。 長年の経験や体験により、ノーフリーランチも理解している。つまり、よりよい商品やサービスに対しては対価を支払う。無料ではそれ相応の価値やサービスしか受けられないことを経験則としてよく理解しているのだ。このため、富裕層向けビジネスにおいて、目先の利益や囲い込みを優先した無料のサービス提供などは、むしろ逆効果といえる。
観光ビジネスで重要なのは「客数」ではない
富裕層が集まる観光地には富裕層でないマスリテール層も集まってくる。逆にマスリテール層がメインの観光地に、富裕層が集まることはない。 観光ビジネスとは、観光客数を集めることではない。むしろ、いかに少ない観光客で収支を成立させ利益を出すかが重要だろう。富裕層や外国人を優先するのは、当然一人当たりの利用金額が大きいためだ。 もちろんすべての観光ビジネスがそうすべきだということではない。さまざまなビジネスモデルや考えがあるべきだ。しかし、観光ビジネスがボランティア事業ではないのであれば、利益を生むためには「選択と集中」が必要であり、公益事業的経営から脱皮すべきだ。 日本政策投資銀行(DBJ)と日本交通公社(JTBF)の「DBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査(2020年度新型コロナ影響度特別調査)」(2020年8月)によれば、コロナ終息後に訪れたい国世界一は日本という調査結果が出ている。 なかでも、ニセコを含む北海道は、日本のなかで京都を上回り、東京に次ぐ訪問したい場所となっているという。この調査資料自体は興味深いながらも、所詮は資料だ。どうも我が国は、観光に限らず、こうした自己満足的なアンケートやマーケティングに勉強会、コンサルティング、発表会や報告会で満足してしまうきらいがある。 成功事例であるニセコでは、こうしたアンケートやマーケティング、コンサルティングに基づいて集客が増え発展していったのだろうか。答えはまったくもってノーのはずだ。外国人投資家にしろ、外資系資本にしろ、リスクを取りながら、自らの資金や資産をかけて、異国の地であるニセコに投資し事業する人間の意思に勝るものはない。 官主導、地元自治体主導の観光策やリゾート計画だと、卓上のこうあるべき論や、調査やアンケートやイメージなどから始まり、デメリットやリスクも考え、結局、総花的で「幕の内弁当」のような施策となり、肝心の需要が置き去りにされて、失敗するケースがほとんどだ。いつまでも勉強ごっこと資料収集ばかりしないで、実需を生む営業をし、収益を生む仕事にフォーカスすべきであり、まずは見切り発車すべきだ。