【毎日書評】小さくても危ない「善良な働き者」ではない「筋金入りのBADな外来アリ」の恐ろしさ
深紅の衝撃「ヒアリ」
ヒアリは学名Solenopsis invicta(ソレノプシス・インビクタ)といい、ブラジルやアルゼンチンを含む南米を原産とするが、1930年代にアメリカ合衆国アラバマ州モービルに侵入し、その後同国南東部の州に広まった。 本種は腹部末端に強力な毒針をもち、刺されると火傷をしたときのような鮮烈な痛みが走るため、fire ant(ファイアーアント:火蟻)と呼ばれている。体も炎を連想させる赤色をしている。(16ページより) 開けた環境を好むため、民家の庭や公園の広場、農耕地などにアリ塚(巣)をつくるそう。住民や農作業者がうっかりアリ塚を踏んでしまうと、下から大量のヒアリが湧き出てきて攻撃を仕かけてくるため、多くの被害が出るといいます。 アメリカでは20世紀半ば、ヒアリを防除するためにDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)をはじめとする各種薬剤が開発され使用されたものの、効果的に抑えることはできなかったそうです。そればかりか、かえって薬剤による環境へのダメージが深刻化したため、薬剤は使用禁止に。そのためヒアリは撲滅されず、被害や対策のため年間50億~60億ドルという巨額のコストが生じているそうです。 問題はアメリカだけに留まらず、経済のグローバル化、アジアをはじめとする環太平洋諸国の経済発展に伴い2001年にはオーストラリア、ニュージーランド、2003年には台湾、2004年には中国でも確認され、2017年にはついに日本でも神戸港で小規模コロニーが発見された。(18ページより) 日本政府は広域的な生息調査を行ったり、従来の外来アリ対策とはレベルの違う対応をとっているようです。そのため過去7年間、港湾の外への拡散を防げているといいますが、とはいえ今後の侵入リスクが去っていないのもまた事実。(16ページより)
ミクロの雷「コカミアリ」
コカミアリ、学名Wasmannia auropunctataは中南米原産のアリで、名前に「カミアリ」と付くが、前出のアカカミアリが属するトフシアリ属(Solenopsis)とは類縁関係にない。そのため体のフォルムはヒアリ類(トフシアリ属)とは異なり、とくに体長が働きアリで約1.5ミリメートルと、アリ類の中でもかなり小型の部類に入る。しかし、ヒアリ類と同様に強力な毒を持ち、刺咬被害が顕著なため、「小咬み蟻」というわけである。(19~20ページより) 世界各地の熱帯、亜熱帯地域、とくに島嶼(とうしょ=島々)に侵入し、独自の生態系への影響が問題になっているコカミアリ。たとえばガラパゴス諸島では、孵化したばかりのガラパゴスゾウガメを毒針で襲うことが報告されているのだといいます。 東アジア地域では2021年に台湾、2022年に中国で定着が確認され、2023年には日本でも岡山県水島港と兵庫県神戸港で発見。国内で発見された個体群は駆除の対応がなされたものの、いよいよ今後の定着が危ぶまれている状況。非常に小さく、侵入しても初期段階で気づきにくいのも怖いポイントだといえそうです。(19ページより)