不本意な異動や出向……職場環境の急な変化で、キャリアを豊かにする方法
働く者一人ひとりの「キャリア」がいっそう重視される時代になった。個人が職業経験で培うスキルや知識の積み重ねを「キャリア」と呼ぶが、それは、一つの職種や職場で完結するものとは限らない。「長さ」に加え、キャリアの「広さ」も、エンプロイアビリティ(雇用される能力)を左右するのだ。書籍『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア ~「弱い紐帯の強み」に着目して~』(*)の著者であり、40代からのキャリア戦略研究所 代表の中井弘晃さんは“パラレルキャリア”こそが、個人と組織を成長させると説く。今回は、職場で起こりがちな不本意な異動が、キャリアにどう影響するかを考える。(ダイヤモンド社 人材開発編集部) * 中井弘晃著『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア~「弱い紐帯の強み」に着目して~』(2022年10月/公益財団法人 日本生産性本部 生産性労働情報センター刊) *連載第1回 価値ある“パラレルキャリア”とは?広義の5タイプから考える副業との違い *連載第2回 “パラレルキャリア”の効果と効果最大化のために個人と組織に必要な姿勢 *連載第3回 仕事のキャリアをよい方向に導く“緩やかなつながり(弱い紐帯)”を考える *連載第4回 “偶然の出来事”をキャリアに活かす!――そのために必要なことは何か? メジャーリーグで異次元の活躍を続ける「大谷翔平選手のすごさ」について、たまたま観ていたテレビ番組のなかで、野球解説者の工藤公康氏が次のような趣旨のコメントをしていました。 「ピッチャーとして投げられないから、走力を強化して、盗塁を増やす、という“目線の持っていき方”が素晴らしい」 右肘手術の影響で、今シーズンは投打の二刀流ではなく、打者に専念して大記録を打ち立てた大谷選手。 誰しも、大谷選手のようにはなれないにしても、「予想外の事態に遭遇したときに、別の能力を鍛える」という考え方や取り組み姿勢は、ビジネスパーソンのキャリア形成にも十分参考になると思います。 今回のテーマは、「思いがけず、偶然に起こってしまった、残念な出来事」に対しての考え方と対応についてです。 前回は、「日常生活において、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心の5つの姿勢を心がけて行動することによって、偶然のラッキーチャンス(いわば“セレンディピティ”)に出合う確率を高められる」点を述べました。 しかし、現実問題として、その5つの姿勢を心がけていても、「予期せぬ、残念な出来事」に遭遇することもあります。たとえば、会社の倒産による失業や企業買収に伴う担当業務の喪失などです。倒産や企業買収までいかなくても、組織方針の変更に伴い、担当していた業務がなくなることもあります。私自身も、ビジネスパーソン時代に、担当していた業務がなくなり、途方に暮れた経験をしたことが何度かあります。 組織を取り巻く環境に大きな変化がない場合でも、メンバーシップ型雇用において、所属する組織の事情により、思いがけない人事異動や出向辞令を受けることは頻繁に起こります。その場合、自身にとっては、歓迎するものではなく、どちらかというと「寝耳に水」的に感じる「不本意な異動」もしばしばあるでしょう。 そこで、今回は特に、多くのビジネスパーソンにとって避けては通れない問題である「不本意な異動」に焦点をあてて考えてみます。 ● 「不本意な異動」はキャリアを好転させるチャンス 順調に仕事に取り組む日々のなかで、上司から突然、来月からの異動が告げられたとき、あなたはどう思いますか? 「せっかく、やりがいを感じながら仕事をしていたのに、なぜいま異動?」「上司から嫌われているのだろうか?」「自分の成果は正当に評価されていないのだろうか?」など、様々なネガティブな感情が頭に浮かんでくるかもしれません。人は誰しも、職場環境が変わることに対して、不安や抵抗感を覚えます。それが「不本意な異動」なら、なおさらです。 ただ、中長期的な視点で見たとき、「異動」は本人にとって決して悪いことばかりではありません。それどころか、スプリングボードにもなり得ます。さらに言うと、「不本意な異動」のなかにこそ、自分のキャリアを好転させるチャンスが隠れていると私は思います。