欧州最大規模の法人向けネットワーク事業者になったColt、APACへの投資も拡大へ
Coltテクノロジーサービスがグローバル、APAC、日本国内の事業戦略説明会を開催した。欧州最大規模の法人向けネットワークプロバイダーとなった同社では、多国籍企業顧客のアジア進出、欧州進出をサポートするべく、ワンストップでのサービス/サポート提供実現を目指している。 【もっと写真を見る】
法人向けネットワークサービスを展開する英Coltテクノロジーサービスが、2024年11月28日、グローバルおよびアジア太平洋(APAC)地域、日本国内の事業戦略説明会を開催した。 昨年、米Lumen TechnologiesのEMEA(欧州/中東/アフリカ)事業を買収/統合して「欧州最大規模の法人向けネットワークサービスプロバイダー」となったColtは、日本を含むAPAC地域への投資拡大も進めている。同日には新たに、オーストラリアのシドニーにおけるメトロエリアネットワークの拡充を発表した。 また日本国内の戦略としては、昨年発表した西日本へのネットワーク拡張を来年後半から順次進めることを説明。そのバックボーンネットワークにおいて、“従来比で70%省電力化”を実現するクローズド液冷方式の富士通製ネットワーク機器(光伝送装置)を採用することも発表した。ゲスト出席した富士通からは、この機器の技術的な特徴が紹介された。 グローバル市場戦略:シドニーでもサービス開始、将来構想では低軌道衛星通信も Coltは現在、40カ国/230都市以上で自社保有のファイバーネットワークを用いたビジネスを展開している。同社のネットワークには、1100以上のデータセンター、3万2000以上のビルが接続されている。 特に昨年は、LumenのEMEA事業を買収し、そのネットワーク資産を統合した。これにより現在は、欧州最大級のファイバーネットワークと、北米東海岸の主要データセンターに接続した大西洋横断海底ケーブルを保有するサービス事業者へと成長している。 ColtでAPAC地域社長を務める水谷氏は、こうしたネットワークの拡大に加えて、Lumenから幹部クラスを含む1300名の従業員を迎え入れたことで、両社のカルチャーや戦略が融合する効果もあったと語る。「Lumenは大企業向け、あるいは政府系のビジネスに深い知見を持っている。そうした知見が一気にColtに入ってきた、という感覚がある」(水谷氏)。 そしてAPACへの投資も拡大していく。その背景について、水谷氏は「欧州に本社のある大手企業から、アジア圏のネットワークに対する引き合いが非常に増えているため」だと説明する。 まず今年6月には、東南アジア6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾、タイ、ベトナム)主要都市へのネットワークカバレッジ拡大を発表している。 それに加えて今回、オーストラリア・シドニーへのネットワーク拡大を発表した。オーストラリアにはこれまでColt、Lumenともメトロエリアネットワークを持たなかったが、顧客からのニーズに応じるかたちで新たに提供を決めたという。サービス提供開始は2025年3月から。 また、グローバルでの将来的な取り組みとして、「NaaS(Network-as-a-Service)機能のさらなる強化」「低軌道衛星通信を活用した低遅延バックボーン」の2つを紹介した。 NaaSについては、すでに提供しているオンデマンドサービスをさらに機能拡充していく方針だという。また低軌道衛星通信については、今年10月にRivada Space Networksとの提携を発表しており、2025年からRivadaが打ち上げる600基の低軌道衛星を用いたネットワークサービスを検討していくと説明した。 「Rivadaは600基の低軌道衛星を打ち上げて、宇宙空間でMPLSネットワークを構築するという取り組みを進めている会社。このネットワークが実現すると、おそらく光ファイバーよりも遅延が少ない長距離通信ができると期待している。これまでのネットワークとはかなり異なる用途、たとえば政府系の通信で地政学リスクを回避したい、あるいは特定用途で遅延が少ない通信を行いたい、そういったニーズにははまるのではないかと考えている」(水谷氏) 国内/アジア市場戦略:西日本へのネットワーク拡大スタート 日本国内およびアジア圏での市場戦略については、Colt日本法人 代表取締役 兼 アジア営業担当 VPの大江克哉氏が説明した。 まず日本国内における大きな動きとしては、昨年計画を発表した西日本地区(岡山、広島、福岡/北九州)へのネットワーク拡張がある。 大江氏によると、西日本のネットワークはすでに設計フェーズに入っており、2025年後半に岡山市内まで拡張、そこから1年ほどかけて順次、広島市内、福岡市内へとネットワークを延伸していく計画だという。大江氏は「(各地域で)キーとなるSIerの主要なデータセンターには、確実に接続していきたい」と語る。 日本を含むAPAC全体の成長戦略としては、「グローバル営業体制」「キャピタルマーケットのアップリフト」「SI成長モデル」という“三本の矢”を挙げた。 1つめの「グローバル営業体制」は、欧州や北米の顧客(多国籍企業)がアジア圏のネットワークを利用する、あるいは日本やアジアの顧客が欧州のネットワークを利用する際に、Coltが“ワンチーム”でサポートできる体制づくりを指している。 これを実現するために、欧州とAPACのそれぞれに専門のセールスチームを設けたという。このチームに属するスペシャリストが、顧客が展開する先のデリバリーチームと密に連携しながら、ワンストップでソリューションを提供していく。 大江氏は、Coltの既存顧客が展開する拠点数(欧州顧客のAPAC拠点数、APAC顧客のEMEA拠点数)を示し、ビジネス展開の可能性が大きいと説明した。特に、日本に本社を持つColtの既存顧客(436社)のEMEA拠点数(1万7000超)は非常に多く、「日本のお客様にColtの付加価値をお届けしたい」と意気込みを見せた。 2つめの「キャピタルマーケットアップリフト」は、各国の証券取引所を結ぶ低遅延/高速ネットワークを利用して提供してきた、金融相場データのリアルタイム配信サービスを拡充するというものだ。これまではアジア圏の取引所データを中心に配信してきたが、新たに米国のNYSE、NASDAQ、OPRA(上場オプション取引価格情報)など80以上の相場情報に拡大する。今年末からプロジェクトを開始し、来年前半にかけて整備を進めるとした。 3つめの「SI成長モデル」では、日本市場での拡大戦略で重要な役割を果たすSIerパートナーとの協業をさらに強化していく。上述した西日本ネットワーク拡張もその一部となるが、SIerデータセンターへのネットワーク接続を強化する。さらに、日本のSIerや顧客企業からのサービス内容に対する要望を、Colt本社にも理解してもらい実際のサービスに反映させる取り組みも進めている。 「今年の夏には、グローバルのオペレーション/エンジニアリング担当幹部を日本に招いて、日本のエンドユーザー様、SIer様の声を生で聞いてもらった。そのうえで、サービスを“日本基準”に合わせるための最優先項目を44項目ピックアップし、現在はアクションプランとしてその実現を進めている」(大江氏) 液冷方式で「70%省電力化」の富士通製ネットワーク機器を初採用 前述したとおり、Coltでは来年、西日本へのネットワーク拡張を進めていく計画であり、そこでは富士通製の光伝送装置「Fujitsu Network 1FINITY(ワンフィニティ) T900/T950」を採用する。 1FINITY T900/T950は、2Uサイズで1波長あたり最大1.2Tbps、1台あたり14.4Tbpsの光伝送が可能な装置だ(将来計画では1波長あたり1.6Tbpsに拡張予定)。フィールド検証では336kmの距離での1.2Tbps伝送も実証している。Coltでは、まずは1波長あたり800Gbpsの伝送装置として活用する。 Coltにおける富士通製ネットワーク機器の採用は初めてのことだという。1FINITY採用の背景について、水谷氏は、Coltでは「その時々で一番最適な機器」を選定する“オープンネットワーク”のスタンスをとっており、今回はColtの要件に富士通1FINITYが合致したためだと説明する。 採用を決めた理由として、特に大きかったのが「省電力性」だと水谷氏は説明する。1FINITY T900/T950では、ネットワーク機器として世界で初めて液冷技術を搭載しており(富士通調べ)、光電融合技術を採用した最新DSPの採用とも合わせ、従来製品と比較して「70%の省電力化」「50%の静音化」を実現しているという。 ゲスト出席した富士通の島田裕二氏は、1FINITYでは“本体内に閉じた”クローズドループ型の液冷方式を採用していることを説明した。この液冷方式は、液体を使ってチップの排熱を高効率で回収し、背面にあるラジエーター/ファンまで移動させたうえで本体外に排出するというものだ。データセンターやラック側での特別な設備工事が不要で、ハードウェア構成も従来製品と同様のためオペレーションがしやすい特徴がある。 将来的に他国でのネットワーク展開においても富士通製品が採用される可能性はあるか、という質問に対して、水谷氏は「もちろんその可能性はある」としたうえで、まずは国内での展開で実績を作りたいと述べた。 文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp