大ヒット映画「カメラを止めるな!」の著作権トラブルはなぜ起こった… “原案”と“原作”の曖昧さが生んだ争いのてん末
「設定が似ている」という感想ばかり
ここでぜひ実際に両作品を見比べてみたいのだが、後述する理由で現在『GHOST IN THE BOX!』を観ることは叶わない。しかも本作は小劇場での舞台公演だったので、映画と舞台の両方を見比べることのできた人はかなり少ない。 作家の内藤みかと堀田純司は、両方の作品を見た数少ない者として貴重な証言を残している。だが両人とも、「設定が似ている」「原案かもしれない」という指摘に留めている点は見逃せない*2。 *2 内藤みかnote 2018年8月13日、「FRIDAY DIGITAL」2018年9月23日 これらを踏まえると、『カメラを止めるな!』が『GHOST IN THE BOX!』の著作権を侵害する可能性はかなり低いといっていいだろう。和田のアイデアは確かに映画に大きく貢献しているが、それがアイデア、すなわち「案」に過ぎない以上、「原案」こそが客観的に適切なクレジットだ。
“原案者”はゴネ得をしたのか?
その後、製作会社が憤りを表明するなど態度を硬化させるも、最終的には、両者は和解を発表。上田サイドは基本的には和田の要求を受け入れ、『カメラを止めるな!』は和田と上田の「共同原作」による作品とすることで決着がついた。現在配信されている版ではクレジットが差し替えられている。 もっとも、この件で和田が全面的に得をしたかというと、そうでもない。実は騒動前に、和田の演出のもとで新たな役者が再演した『GHOST IN THE BOX!』のDVDの発売や配信が予定されていたのだ。しかし騒動後、これらが発売日の一ヶ月前に急遽発売中止になっている。和田が発売中止を申し入れたのだという。 詳しい事情は明らかになっていないが、『カメラを止めるな!』とのトラブルは無関係ではないだろう。「原案」ということで早期に矛を収めて、「大ヒット映画の〝原案”となった舞台劇」として売り出せば、注目を集めたに違いないのに……。それを発売直前というタイミングでお蔵入りにさせれば、関係者には迷惑をかけただろうし、「面倒くさいトラブルメーカー」という印象にしかならないのではないか? そう考えると、つくづく「原案」で満足できなかったのが残念である。
低予算映画らしい不手際も一因か
一方、『カメラを止めるな!』サイドにしても、制作の初期段階で、劇団関係者を通して、和田にきちんとクレジット表記について丁寧に確認を取っておけば、最初からトラブルを回避できた可能性が高い。 述べたように、クレジットを「原作」とするか「原案」とするかは「当事者のお気持ちによる合意事項」という側面がある。後手に回った対応のせいで、和田が態度を硬化させた気持ちもまた、理解はできるのである。 ともあれ、こうして終結した「カッテに使うな!」騒動だが、このような低予算映画ならではのスリリングな舞台裏に思いを馳せるのも、作品の楽しみ方のひとつ、といえよう。
弁護士JP編集部