大ヒット映画「カメラを止めるな!」の著作権トラブルはなぜ起こった… “原案”と“原作”の曖昧さが生んだ争いのてん末
週刊誌での不意打ち告発
しかしその後、思わぬところでこの劇団の名前を再び目にすることになった。劇団を主宰していた和田亮一が、突然、週刊誌『FLASH』で「『カメラを止めるな!』は私の作品を無断でパクった!」「著作権侵害で闘う」(同誌見出し)などと、上田監督らを告発したのである。ちゃんとエンドロールにクレジットされていたのにもかかわらず、いったいどういうことだろうか。 当時週刊誌やブログで展開された和田の主張は、自分は『カメラを止めるな!』の「原案者」ではなく「原作者」であり、クレジットにも「原作」と表記してほしいというものであり、また和田の弁護士は、同誌で「著作権侵害の事実がある」と断言していた。
「原案」か「原作」か
経緯としては、もともと上田が和田の『GHOST IN THE BOX!』を気に入り、当初は劇団関係者に了承を得て映画化を企画していたそうである。それが頓挫したため、改めて、劇の発想だけを取り入れたオリジナルのストーリーと演出で上田が新たに創作したのが『カメラを止めるな!』だったという。 これを上田は「『GHOST IN THE BOX!』から着想を得た、オリジナル作品」と位置付けていた。したがって、上田も和田も、元ネタが『GHOST IN THE BOX!』であるという認識は共通して持っていたことになる。ただ、それが「原案」か「原作」かという点に食い違いがあったのだ。
何の違いがあるのか?
原案、原作という言葉は著作権法にはないが、原案は「作品の元となる設定やアイデア」、原作は「元となる著作物」という意味で使い分けられることが多い。つまり原案と原作の違いは、前者には著作権がなく、後者には著作権があるということだ。 ただし、映画や出版業界では曖昧に使われることもあり、これが話をややこしくしている。「原案者」にも著作権料相当の使用料が支払われていたり、「原作者」としてクレジットされているものの、実態として原作の面影がほとんどないこともあるのだ。こうした業界慣習を踏まえると、「原案」か「原作」かは、当事者同士のお気持ちによる合意事項という側面もある。 ここでは、著作権侵害にあたらなければ「原作」ではなく「原案」である、としよう。和田の主張から、『カメラを止めるな!』が『GHOST IN THE BOX!』の著作権を侵害するのかどうか、考えてみたい。和田は、前掲『FLASH』でこう述べている。 <構成は完全に自分の作品だと感じました。この映画で特に称賛されているのは、構成の部分。前半で劇中劇を見せて、後半でその舞台裏を見せて回収する、という構成は僕の舞台とまったく一緒。前半で起こる数々のトラブルをその都度、役者がアドリブで回避していくのもそう>*1 *1 『FLASH』2018年9月6日号(光文社) この発言を前提とするならば、和田の主張の正当性は怪しい。「前半で劇中劇を見せて、後半でその舞台裏を見せて回収する、という構成」は、確かに評価された要素だが、構成それ自体は具体的な表現ではない。斬新ではあるが、アイデアである。「前半で起こる数々のトラブルをその都度、役者がアドリブで回避していく」も同様で、これは三谷幸喜作品などでも見られるもので斬新なアイデアとも言い難い。 どうも和田は、アイデアや設定が共通していることをもって「原作」(著作権侵害)であると主張していると疑わざるを得ない。多くのエセ著作権者同様、「アイデアや設定は独占できる」という誤りにハマっているに過ぎない可能性が高いのだ。