日本映画史上、最も切ないラストは? 苦すぎる結末の邦画(2)ちょっぴり残酷…死んだ同級生の手紙の内容は?
ギリシャの哲学者アリストテレスは、魂を浄化する「カタルシス」の条件として、「怖れ」と「憐れみ」の感情が必要だと述べている。つまり、精神の浄化には、ハッピーな展開ではなく、バッドな展開を観ることが必須なのだ。そこで今回は、ほろ苦い結末を迎える日本映画5本をセレクト。心を浄化してくれる作品を紹介する。第2回。(文・シモ)
『Love Letter』(1995)
監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二 出演:中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇、加賀まりこ、田口トモロヲ 【作品内容】 婚約者の藤井樹(柏原崇)を山岳事故で亡くした渡辺博子(中山美穂)は、彼の3回忌の帰りに、樹の母(加賀まりこ)から中学時代の卒業アルバムを見せられる。 博子は、彼の住まいがあった小樽の住所に届くはずもない手紙を出す。 しかし、驚いたことにその手紙は、婚約者と同姓同名の女性・藤井樹(中山美穂・二役)の元に届いていた…。 【注目ポイント】 本作は、『リリイ・シュシュのすべて』(2001)で知られる岩井俊二の長編映画第一作。2役を務める中山美穂の感情豊かな演技や、酒井美紀と柏原崇のみずみずしい演技が注目の作品だ。 物語は、婚約者を亡くした渡辺博子と、婚約者と同姓同名の女性・藤井樹との文通を介した交流から始まる。互いに、中学時代の思い出を手紙にしたためる博子と樹。次第に、亡くなった樹の存在がまるでフィルムのように蘇っていく―。 そして、物語のラストでは、母校の図書委員の後輩たちが、藤井樹の自宅を訪問。樹にある本を手渡す。その本とはマルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』。紅茶に浸ったマドレーヌの味から、人生の記憶を辿る大長編だ。 そして、本の間には、樹が当時の彼女を描いた似顔絵が差し込まれている。今は亡き樹から送られてきた、時を超えたラブレターだ。しかし、ラブレターへの返信は、今はもう送れない。 あのときこうしていれば―。青春時代のほろ苦さは残るが、なぜかそこには希望が生まれている。観る者を残酷なものに触れた気分にさせつつ、晴れやかな気持ちにもさせる。素晴らしいラストシーンだ。 (文・シモ(下嶋恵樹))
シモ