復活する多摩川のアユ(2)川を大切にする心、アユを食べて川と親しむ
「天ぷらもうまいが、蒲焼きならうなぎ同様の身のほろほろ感」
多い日は、1日に約50kg獲れるが、少ない日は何回網を投げても計10尾に終わる日もあるという。子供の時から積み重ねた知識と経験が頼りで、山崎さんは「アユの生態を知らずには獲れないでしょう」と説明する。 多摩川の水質が悪かった子供のころから、獲ったアユを食べてきたという山崎さん。不味かったアユからせっけん臭がなくなり、ようやくおいしく食べれるようになってきたと感じた2007年以降、アユの商品化に取り組んできた。 現在は、川崎市内の日本料理店「蕎麦酒房 笙(しょう)」にアユを卸すほか、アユを加工して作ったせんべいを山崎さん自らネット販売する。また、アユの一夜干しを築地で加工して、日本橋三越に納めているという。
アユ漁の終了後、川崎市の笙で山崎さん親子が獲ってきたアユを天ぷらにしてもらった。香ばしい衣に包まれたアユを口に入れると、意外と脂が乗っており美味に感じた。会計で支払った金額は、1人前650円(税抜)。「天ぷらがうまいのですが、蒲焼きにすると、うなぎ同様の身のほろほろ感が味わえます。寿司も良いのですが、少し皮が固かったですね」と山崎さん。 通常は、持ち帰ったアユを冷凍保存する。山崎さんは容量200リットルの冷凍庫計5台に冷凍アユを約1t保存し、注文に1年中対応できる体制を整えている。アユの年間漁獲量は約1t弱。現時点ではあまりもうかっていない模様だが、採算を考えずにアユを提供するときもあるらしく、きっちり換金すればビジネスとして十分成立すると山崎さんは見ている。アユの資源量からみても、漁獲量の拡大の余地はまだ十分あるとも予想する。
アユの安定供給には漁獲量の拡大が必要
実は、多摩川でアユ漁を行い、他者に販売しているのは、山崎さんただ1人のようだ。川崎河川漁協では言うに及ばず、東京の多摩川漁協でも、アユの投網漁を行う組合員は複数存在するが、いずれも自家消費もしくは地域の祭りなどで消費しており、生業としている人はいないのが現状という。組合員の平均年齢は約70歳。遡上数が回復傾向にあるからといって、アユ漁をビジネスとして成立させるほどのモチベーションは期待できないかもしれない。 せっかく増えてきたというのに、多摩川のアユを食べるには山崎さんが流通させるアユ以外だと、自ら釣り客として釣り上げるぐらいしかほとんど道はない。もし、多摩川の特産品として販売したり、流域周辺の飲食店で食べられるようにするには、アユの安定供給および供給量の拡大が求められる。そのためには、山崎さんの他にも漁師が登場するなど、何らかの形で漁獲量の拡大を図る必要がある。もちろん、乱獲は避けねばならないので、適正な漁獲量も併せて検討しなければならない。 (取材・文:具志堅浩二)