<ロシア攻勢の原因はどこにあるのか>ウクライナの挽回に必要なのは兵士増強とアメリカの一手
プーチンがハリキウを選択した理由
5月10日、ロシア軍は奇襲を開始し、ベルゴロド州から防御が全く手薄なハリキウ州との国境を越えて、15日には国境から5キロメートルのウォウチャンスクに達し、また、リプツィ(ハリキウはリプツィから砲撃の射程内となる)に向けても軍を進めているようである。この論説は事態がここに至った背景を的確に描写している。 ロシアがハリキウ州を選択した狙いについて、記者に問われたプーチン大統領は、ウクライナの越境攻撃からベルゴロド州を守るための「緩衝地帯」を作ることだと言及した――ベルゴロド州はウクライナのドローンやミサイルによる攻撃、あるいはウクライナを拠点とする民兵の越境攻撃に晒されて来た経緯がある。 ハリキウ市の奪取がロシアの目標となるかを記者に問われたカヴォリ北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官は、侵攻したロシア軍にはそのような戦略的ブレークスルーの達成に必要な兵力と技量は備わっていないと応答した。しかしながら、ウクライナは急ぎドンバスその他の地域から兵力を廻してハリキウ地域の防衛に当たらざるを得ず(現にドンバスの兵力を割いているようである)、ウクライナの少ない兵力は更に薄く伸び切ることを強いられ、今後の戦局に重大な影響を及ぼすであろう。
今後について、この論説は、前線の要塞化を急ぎ進め、動員によってウクライナ兵の増強を進めれば、米国の武器弾薬の流入と相俟って、ウクライナが立ち直る時間はあると書いているが、論説の末尾の一文は何やら不吉な印象を与える。
米国の政策変更の必要性
緊急に必要とされることは、この論説もその必要性を強調しているが、米国の武器でロシア領内を攻撃することを禁ずる使用制限を米国が解除ないし緩和することである。米国の規制はロシア領内に聖域を作り出し、ロシアはウクライナの攻撃を怖れることなくハリキウ州への越境攻撃に先立ち地上軍を国境の反対側に集結させることができたことを意味する。 ロシアは地上軍の侵攻に先立ち、ロシアの空域から爆撃機で滑空爆弾(この爆弾は安価でありながら大変な脅威のようである)を投下して地上作戦を支援することが出来たが、ウクライナは米国のパトリオットでロシアの爆撃機を迎撃することが禁じられていたことになる。 第三次世界大戦を引き起こすロシアによるエスカレーションを防ぐというのが米国による使用制限の政策の根拠であるが、如何にも馬鹿げている。少なくとも、この政策の緩和は工夫可能と思われる。 5月3日、キーウを訪問した英国のキャメロン外相は英国の武器をどう使用するかはウクライナの判断だと表明した。米国を説得出来る外国があるとすれば、英国であろう。
岡崎研究所