三上博史が語る“凝り固まることへの危機感「自分自身も“いかん、いかん”と自覚的に潰していかないと」
オフ・ブロードウェイで1997年に上演された『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。性別適合手術を受けたロックシンガー、ヘドウィグの愛と自由を渇望する人生を、数々の名曲とともに描いた名作。日本での初演は2004年。このときヘドウィグを演じたのが三上博史さん。20年の時を超え、三上さんのヘドウィグがライブバージョンとして再び帰ってくることになった。作品との出会い、時を経て『ヘドウィグ~』が三上さん自身に与えたもの。そして三上さん自身の原点ともいえる寺山修司さんとの出会い。それぞれ熱を込め、語ってくれた。【第2回/全4回】 ■【画像】渋い横顔!インタビュー中、真剣な面持ちの三上博史さん■ 『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』、2004年の日本での初演から20年。その間、社会も世界も大きく変化を見せた。その中で『ヘドウィグ~』が持つ意味合いも変化してきたのだろうか。 「この物語はベルリンの壁があった時代のドイツの話で、だからこそ壁を乗り越えろ、と歌っている。でも今、さらに壁だらけの世の中になってるように思うんです。とりつくしまもないぐらいの分断。 たとえば“私はワクチンを信じてる”、“私は信じない”とか。その答えはどちらでもいいんですけど、その分断があると話もできないですよね。 SNSから発される、見渡す限り壁だらけで、意思の疎通もできない世界。それをヘド様(ヘドウィグ)は壊したいんだろうな、と思うんです。今回は歌の中だけでそれを届けていくということで、歌を通して少しでも呼吸ができるような空間ができれば、と。“なんでもありじゃん!”“自分はそうは思わないけど全然責めないよ”という世界。そういうところに行けたらいいな、と思っています」
「より柔軟に」三上博史が心がけていること
「なんでもありじゃん!」という想いを届けられればと語る三上さん。ご自身も「より柔軟に」と心掛けているという。 「特に年を重ねていくと、どうしても頑固になって、柔軟でいるということがより一層大事になってくると思うんです。すごく素敵な人なのに、同時にすごく凝り固まってる人がいっぱいいるじゃないですか。とてもがっかりさせられるんです。自分を守ろうとするからかな……。放っておくとそっちに行ってしまうんです。それを自分自身も“いかん、いかん”と自覚的に潰していかないと、というのは思ってます」 今の時代に『ヘドウィグ~』が伝えるもの、伝えたいものとはーー。 「言葉にするとすごく大上段になってしまって、押し付けがましくなっちゃいそうで嫌なんですけれど、でもとにかく“大丈夫だから”、“綺麗に生きよう”っていうことを思いますね。 “綺麗に生きよう”というのは意味合いを伝えるのがすごく難しいんですけど、僕自身、残りの人生を綺麗に生きたいんですよね。これ以上汚れたくない、これ以上濁りたくない……って。そういうところに行きたいというか、いたいというか。 理想論といえば理想論ですけど、 “大丈夫だから”という思いを最終的には届けたい。でも、昔はもっとギラギラしてたんです。今はもうそんなの全然ないです」 評価されたい、というような思いはない、と語る三上さん。今舞台に立つ原動力になっているものはなんだろうか。 「揺さぶりたいっていうのかな。反面教師でも構わないし、 “ああいうダサいことはしたくないよな”っていう影響でもいいんです。そこでその人たちが違う道を見つけたりしてくれれば全然いい。何かのきっかけになってくれたらな、と。その思いで舞台に立ってますね」 みかみ・ひろし 東京都出身、神奈川県育ち。1979年、映画『草迷宮』でデビュー。87年の映画『私をスキーに連れてって』や88年のドラマ『君の瞳をタイホする!』(フジテレビ系)などトレンディードラマに出演。近年もドラマW『下町ロケット』、『震える牛』(ともにWOWOW)など主演作品は多数。03年に舞台『青ひげ公の城』に主演。04年には舞台『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の日本初演で主演をつとめ、翌年にも再演が行われるほど好評を博した。 田部井徹
田部井徹