台風進路、何度も予測変更のなぜ 高気圧に挟まれ速度低下
「これほど変わるのは記憶にない」
日本の南2000キロの熱帯海域で22日に発生した台風10号は、気象庁や米軍合同台風警報センター(JTWC)が予想した進路・勢力を覆しながら、例年にない強い勢力で九州南部に接近している。「これほど予測が変わるのは記憶にない」と同庁担当者も語る異例の背景を探った。 気象庁によると、台風は通常、西太平洋の熱帯海域で発生し、太平洋高気圧の西側の弧を回りながら北上する。このため、その時々の高気圧の状況を正確に把握することが、台風の進路を予測する大きな決め手になる。 10号は発生当初、中心気圧が1000ヘクトパスカルで、太平洋高気圧の張り出し具合から、直線的な進路をたどり、日本に向けて北上するとみられた。予想進路の海面水温が30度以上と例年にない高さになっているため、「かなりの勢力に発達する」との見通しもあった。 気象庁は発生2日後の24日、紀伊半島付近に28日にも上陸し、29日には北陸付近から日本海へ抜ける「縦断型」を予測した。ところが、高気圧が予想を超えて張り出してきたことで、25日には上陸予想地点を四国に修正。太平洋高気圧はさらに張り出しを強め、同庁は26日、上陸予想日・地点を29日・九州南部と大幅な変更を余儀なくされた。 一方、日本周辺の気象も予想を覆した。大陸から別の高気圧が南へ張り出し、日本海上に前線が生まれ、日を追うごとに活発化。太平洋高気圧に西へ西へと押された10号は進路を失う形となり、速度を落としていった。 同庁は26日夜から27日、北からの高気圧と前線、太平洋高気圧に挟まれて生まれた列島上空の“隘路(あいろ)”を進むと分析。九州から東北方面へ進む「縦貫型」になると発表、東日本にも緊張が走った。 速度の低下により、10号は高温海域上で大量の水蒸気を吸収することになった。同庁は26日時点で、九州最接近時の予想ヘクトパスカルを950としたが、28日には925へと修正。「(上陸時に929ヘクトパスカルだった)伊勢湾台風並みの勢力」との警告につながった。 JTWCの予想も気象庁と同様、目まぐるしく変わった。同庁担当者は「日本周辺の気象環境が変化している」と述べ、現行の予測技術には限界があるとの認識を示した。 (栗田慎一)