大マゼラン雲に見つかった10個の“低金属星”で初期宇宙の見方が変わる?
宇宙で最初に誕生した恒星の性質を知るには、今のところ初代の恒星の残骸から誕生したと考えられている「低金属星」を調べる間接的な方法が頼りです。低金属星は10万個に1個程度という非常に稀な存在であり、これまで性質が詳しく調べられたもののほとんどは天の川銀河に属するものでした。 今日の宇宙画像 シカゴ大学のAnirudh Chiti氏などの研究チームは、天の川銀河の衛星銀河である「大マゼラン雲」に含まれる恒星を調べ、その中から低金属星を10個ピックアップして分析を行いました。その結果、大マゼラン雲の低金属星は、天の川銀河のほとんどの低金属星とは異なる元素の比率を持つことが判明しました。元素の比率の違いは低金属星が形成された環境の違いを反映していると考えられるため、初期宇宙の様子を探る重要な手掛かりとなります。
■「低金属星」はまだ見ぬ初代の恒星の手掛かり
宇宙で最初に誕生した初代の恒星(種族III)はどのような性質を持っているのでしょうか?そのような星恒星は、太陽の数百倍という途方もない質量を持ち、すぐに(100万年未満)寿命を迎えるため、私たちの近くには存在しないと考えられています。最近運用が開始された「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、極めて遠い宇宙にある初期の銀河を観測史、初代の恒星の性質を知ることができると期待されていますが、これが成功するかどうかはまだ分かりません。 そこで今のところは、初代の恒星の性質を知る手がかりとして、初代の恒星の残骸から形成された第2世代の恒星である「低金属星」(種族II)に注目が集まっています。初代の恒星と異なり、低金属星は太陽程度の小さな質量を持つため、誕生から100億年以上経った現在でも天の川銀河に存在します。 低金属星とは、金属の含有量が太陽などの新しい恒星と比べて文字通り低い星を意味する言葉ですが、ここでいう金属とは鉄のような化学的な金属元素に限らず、炭素や酸素などの化学的には非金属の元素も含まれます。このことは宇宙における元素の合成と関わりがあります。 誕生直後の宇宙にはほぼ水素とヘリウムしかなかったため(※)、初代の恒星は純粋な水素とヘリウムの塊であると見なせます。しかし、恒星の中心部で起こる核融合反応ではリチウム以上の重い元素が合成されます。やがて初代の恒星が寿命を迎えて超新星爆発を起こすと、核融合反応で合成された重い元素がばらまかれました。 ※…実際にはリチウム以上の金属も少量生成されたと考えられますが、その量は100億分の1未満であり、存在は無視できるほどです。 この残骸から形成される第2世代の恒星は、初代の恒星には無かった重い元素を含んでいる一方で、それよりも後の世代の恒星と比べると重い元素の含有量が少ないはずです。これらのことから、水素とヘリウム以外の重い元素を金属と総称し、金属の含有量が極端に少ない恒星を低金属星と呼ぶ、という習慣があります。 低金属星は恒星10万個あたりに1個という非常に稀な存在ですが、天の川銀河でもいくつか発見されており、なかには宇宙の年齢そのものに匹敵するほど古いと推定されるものもあります。一方で、元素の比率を詳しく知ることができなければ低金属星であると証明できないことや、存在自体が稀であることから、これまで天の川銀河以外の低金属星に関する詳細な研究はほとんど進んでいませんでした。