統計学用いた「セイバーメトリクス」 台湾球界にデータ革命
(台北中央社)台湾プロ野球(CPBL)が3月30日、開幕した。35年目のシーズンを迎える今年、プロ球界で、統計学の視点からデータを分析する「セイバーメトリクス」を活用した革命が起ころうとしている。 セイバーメトリクスを用いて、米大リーグのあるチームを改革したノンフィクション小説「マネーボール」(Moneyball)が2003年に出版されると、球界でデータの力が重要視されるようになる。 米国では経営陣づくりや選手選び、さらには戦術やルールの運用などに影響を与え、選手経験のない人材が分析専門スタッフとして球団に加わるようになるなど、今日の大リーグの姿を作った。 現在、米球界の特定の選手や球団に関する資料を入手したければ、ほぼ全てを海外のウェブサイトで調べることができる。一方台湾では、CPBLがメディアに開放しているデータベース以外、関連するリソースが依然として極めて乏しい状態にある。 しかし、台湾で野球データを扱うベンチャー企業「Rebas野球革命」が、オンラインでCPBLのさまざまなセイバーメトリクスデータを公開したことに伴い、誰もが参加できる野球のデータ革命を迎えようとしている。 同社のCOO(最高執行責任者)、鄭凱駿氏は「私たちは終始、台湾球界のために、これまでになかったものをもたらしたいと考えている」と話す。 ▽「革命」の始まり Rebasは2020年の夏に、鄭氏と高校時代の友人、邱冠融氏の2人で設立した。どちらも同じ野球部に所属する球児だった。 当初はオンラインプラットフォームを起点に、台湾の各アマチュアリーグがアップロードしたデータを提供するサービスを考案。北部地域の高校リーグが最初の顧客となり、その後4~5の地方リーグやカップ戦と協力したが、十分な利益は得られなかった。さらに厳しいことに新型コロナウイルスが大流行し、多くの大会が中止となった。 21年にあるインターン生の提案でCPBLの記録を始め、同年8月に初めて公開したところ、思いも寄らない反響を呼んだ。 インターネット掲示板利用者が熱心にシェアをしたため、通常の100倍近くのアクセスが集中して、初めてサイトがダウンしたと鄭氏は振り返る。その後、サイトの最適化やデータの充実を進め、23年10月にサブスクリプション(定額利用)サービスをリリースした。 利用者は、打者の打球分布や各球種に対する成績、投手の投球コースや配球パターンなどのデータが閲覧できる。海外で選手の価値判断材料として最もよく使われる勝利貢献度指数(WAR)などについては、引き続き開発を続け、いつの日か、米国の有名な野球データサイト「FanGraphs」の台湾版となることが最終目標だ。 既存のサービスはファン向けだが、市場拡大のため、「企業版情報収集システム」も開発し、CPBL球団にアプローチしているという。500人余りのサービス利用者を引き込んでおり、鄭氏は、新シーズンが始まるにつれて、利用者数が伸び続けていってほしいと述べた。 ▽全ての人を巻き込む スポーツ専門チャンネル「ビデオランド・スポーツ・チャンネル」(緯来体育台)のキャスター、李秉昇氏は、Rebasはキャスターや解説者の間でかなりの知名度があり、多くの同業者と意思疎通していると話す。李氏は、もしデータがより広く活用されれば、野球は台湾の「国技」として、異なるやり方で新たに記録されることになるかもしれないと語った。 データ分析の人材を発掘するため、台湾野球ソフトボール科学研究会は23年、Rebasと、野球データ分析会社「StatsInsight」(灼見運動数拠)と共に、台湾初となる「台湾野球データ分析コンテスト」を開催した。 コンテストは、バント戦術の効果や大リーグの極端な守備シフトを禁止した原因と影響などのテーマから、一つ選んでレポート作成の上でプレゼンテーションを行う方式で、30組のアマチュアチームが参加した。参加者のうち約7割が、大リーグの選手や球団に焦点を当てて分析を行った。 主催者は当時、CPBLのデータ入手の難しさが参加者のテーマ選びに大きな影響を与えたとし、もしファンがより多くのCPBLのデータを取得できれば、選ばれるテーマのバランスが保たれただろう、と話した。コンテストは今年も規模を拡大して開催する予定だという。 鄭氏は、Rebasの当面の仕事は、台湾プロ球界の「インフラ」を整備することと考えており「今後プロ球界は、分析人材の取り合いになる」と予想している。 2人の元球児が立ち上げた会社は、正社員、インターン生、記録スタッフを合わせて20人規模に成長した。鄭氏は、業界を発展させていく責任感を徐々に感じるようになった。「Rebasはまだまだ成長を続けていく」。台湾の全ての人々を巻き込んだ革命が、今まさに始まろうとしている。 (趙彦翔/編集:中村充孝)