「AIとクリプトの融合」で起きる3つのイノベーション
2021年後半にクリプト(暗号資産)市場はピークをつけた後に、約2年にわたる「クリプトウィンター(暗号資産の冬)」と呼ばれる低迷期を耐え忍んだ。この時期、ChatGPTをはじめとする生成AIブームが破竹の勢いを見せ、Web3およびクリプトブームから話題をさらった。多くのWeb3スタートアップや起業家はAIにピボットしたり、VCも投資対象をWeb3からAIにシフトしたりしていった。 現在、ビットコインの価格は盛り返し、史上最高値を更新している。クリプトウィンターが終わりを告げ、ようやく「クリプトスプリング(暗号資産の春)」が到来したといえるだろう。そんななか、今回のサイクルで特に際立っているのが「AIとクリプトの融合」というナラティブだ。 AIとクリプトは相互補完的なイノベーションであり、クリプトはAIのイノベーションを加速化させ、AIはクリプトのイノベーションを加速化させるものである、という考えだ。さまざまな切り口があるが、特に次の3つの切り口が注目されている: (1)AIインフラとイノベーションの分散化 (2)AIエージェントの経済活動インフラとしてのクリプト (3)クリプトによるAIの信頼性と安全性の向上 一つひとつ見ていこう。 (1)AIインフラとイノベーションの分散化 AI業界は、GPU(グラフィックス プロセッシング ユニット)不足という大きな課題に直面している。機械学習の計算には膨大なリソースが必要であり、その過程でGPUが必須となっている。AIへの需要が高まるなか、AWSやMicrosoft Azureなどの大手クラウドサービスでは顧客へのGPUの提供に制限を加えている。 その解決策の一つとして期待されているのが、分散型のコンピューティングネットワークである。一般消費者や企業が保有しているGPUを使っていない時に分散型ネットワークに提供することで、AIの計算資源の不足を補うことができる。いわば“GPUリソースのAirbnb”だ。リソースの提供者はトークンを通して報酬を受けることになり、利益の一極集中化を阻止した、より分散型の経済モデルとなる。分散型コンピューティングネットワーク「Akash」や、機械学習マーケットプレース「Gensyn」などが代表的なプロジェクトだ。 また、AIの機械学習をより分散的な英知を活用して開発する仕組みも進んでいる。例えば、Bittensor(ビットテンソル)というプロジェクトは、特定分野のAIモデルを保有する研究グループが自分たちのモデルを分散ネットワークに提供し、それを他のモデルと融合させることでより広範囲の新たなモデルを開発できる仕組みを採用している。モデルを提供したグループはその貢献を通して「TAO」というトークンを報酬として受け取る。これまではOpenAIやグーグルといった中央集権的な組織で行われていたAIの研究開発に対して、幅広い叡智を活用したコミュニティ参加型のAIイノベーションを生み出すことが目的だ。AI開発のいき過ぎた中央集権化、利益の一極集中化に対する牽制力となる可能性を秘めている。