濃厚かつ食べごたえ、昔ながらのツナ缶を作り続ける静岡・由比缶詰所
社員が自分たちのために作り始めた
由比缶詰所の主力商品は、ビンナガマグロを使った高級ツナ缶。クチコミで人気が広がり、同社の主力商品となっている。ホワイトミートと呼ばれる白色の肉質を原料に使用し、マグロ本来の美味しさを引き立てる綿実油やオリーブ油を使い、じっくり熟成させて作り上げるツナ缶は、欧米に輸出されていた往時のツナ缶を彷彿とさせるものだ。「社員が自分たちのために作った缶詰でした。製造する数もわずかでした 」と川島氏。どういうことか?そこには戦後のツナ缶を取り巻くいきさつがある。 戦後、ツナ缶は国内向け商品となり、生産コストを下げるために原料はキハダなどが主流となり、油も大豆油が使われ、大量に生産されてスーパーに並ぶようになった。企業間競争の中で、多くの業者がそうであったように、由比缶詰所も大手メーカーの下請け工場として大手メーカーが作るツナ缶の製造をはじめ、やがてそれが生産のほぼすべてを占めるようになっていったという。 そんな時、自分たちが誇りをもって作ってきたツナ缶を作ろうと、社員たちが、自分や身内だけのために、かつてのツナ缶を工場の稼動の合間を縫って作り始めた。昭和40年代後半から50年代にかけてのことだ。身内用に秘かに作っていたツナ缶だったが、徐々に由比の地域に広まっていき、作る数も増えていった。
生き残りをかけて市場投入
社員が社員のために作り始めたツナ缶の人気が高まる一方で、大手メーカーのツナ缶製造にも変化があらわれはじめた。コスト削減のために缶詰生産を海外に移し始め、その結果、由比缶詰所のツナ缶生産量が徐々に減少していったのだ。大手メーカーからの生産依託が減少する中で、由比缶詰所が生き残りをかけて生産強化に乗り出したのが、身内用に作り始めたビンナガマグロのツナ缶だった。 時代の波に揺れながら、かつて輸出用として作られていたビンナガマグロのツナ缶は、国内向け高級ツナ缶として”復活”し現在に至っている。販売は由比の同社直売所と通販のみだが、クチコミやネットで人気が広まり、今では他県から直売所まで買いにくる人が少なくないという。「日本近海を回遊している一本釣りされた生のビンナガマグロから、油ののり、身の色を厳 選したものを買い付けて原料にしています」と川島氏。ツナ缶を彩る歴史とともにある由比缶詰所のツナ缶。その味は濃厚かつ食べごたえがある。