「慰謝料は少なく、弁護士費用に消えていく…」誰も知らない、一生の傷を負った性被害者が味わう無力感
■ヘルプカードを配るも、校長からクレームが そんな中、コツコツと行なっている小さな活動がある。 「ヘルプカード」(写真)の配布だ。もし、子どもが大人(親族も含む)に気持ちの悪いこと、痛いことをされたら、このカードを周囲の信頼できる大人に見せて、支援団体に連絡してもらうのだ。 「自分では団体に電話できない小さな子どもを救う一つの方法になればと思い、このカードをつくり、幼稚園や小学校に配っています。さらにはスーパーやデパートにも置けたらなと。なぜなら親がこのカードを見たら、表沙汰になるのを恐れて破り捨てることもあるのです。その場合はスーパーやデパートでこのカードを取って、近くの大人に見せれば、『助けてほしい』という意思表示ができます」 たえさんが、このヘルプカードを孫が通う小学校に持って行った時のこと。女性校長であり、理解もあるかと思ったが、「こんなカードを置くと、子どもが大人を信用できなくなるかもしれない」と難色を示されたそうだ。 ■息子にセクハラした養護教諭は素知らぬ顔で転任した 子どもたちを教え導く教師でさえ卑劣な行為をする輩もいる。 「私の息子も、学校の養護教諭にセクハラを受けたことがあるんです。実際に性行為があったかどうかは定かではないのですが、息子を言葉巧みに手なずけ、セクハラを何度も行なっていたようなのです。そのことがわかって、養護教諭に問いただしたところ『付き合っている彼氏とうまくいっておらず、むしゃくしゃしてやった』と言い訳していました。呆れてモノも言えませんが、彼女は免職になるどころか、シレッとほかの学校に転任して行ったのです。その学校で同じことを繰り返しているのではないかと思うとゾッとします」と、息子が受けたセクハラを振り返る。
■子どもの人権をまるで無視。遅れた日本の現在地は 筆者が小学生だった1970年代、実家が旧弊な田舎にあったこともあるが、教師による体罰以外にセクハラが行われていたのを思い出す。発育がいい女子の体を堂々と触る教師がいたのだ。触られていた女子生徒も、教師にかわいがられていると思ってか、笑ってかわしていたが、傍で見ていた私はそれを鮮明に覚えているほどショックだった。もしかしたら、陰ではもっと過激なハラスメントが行われていたかもしれない。言語道断の行為だが、昭和の真っ只中の時期、それは容認されていたのだ。 2022年、「教員による性暴力防止法」が施行され、性暴力を行なって教員免許が失効した教師をデータベースで確認できる仕組みが導入された。しかし、これは事業者側が事前にデータベースを確認することが前提なので、見落としもありうる。さらには、罪を犯しても教員免許を失効していなければスルーされてしまうザル法だ。 そんな中、2024年に「日本版DBS」の導入が成立。学校、認定子ども園、保育所などの学校教育法や児童福祉法で認可を受けている事業者は、教師・養護施設の職員・子どもに接する仕事に就く人間の性犯罪歴を確認することを義務づけるものなので、一歩前進ではあるのだろうか。 そして、たえさんは学校や家庭での性教育の徹底も力説する。 「ヘルプカードが普及するのはもちろんですが、小学校のうちからきちんとした性教育を行い、性被害があることを子どもたちに知らしめてほしい。子どもに猥褻な行為をする、性行為をする人間は犯罪者であること、そしてそういう目に遭ったら、迷わず信頼できる大人に相談することを小さな頃から徹底して教育してほしい。教育は性被害の抑止力になるはずです」 また、紀藤弁護士は、人権教育の重要性を説く。 「日本では子どもの人権が疎かにされすぎています。日本は父母が離婚したら単独親権であり、いまだに共同親権の問題が議論されています。欧米に比べて遅すぎるし、弁護士の中にも共同親権に反対している者がいるくらいです。でも、共同親権のほうが片親の虐待を監視しやすい。そもそも、親権を持たない片親に会わせないとか、子どもに『親のどちらかを選べ』だなんて酷な話で、子どもの人権を無視しています」