神山健治監督、『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』で“手描きアニメ”にこだわった理由は?実写三部作のすごみが「アニメーターたちが心を込めて描いた絵に宿っている」
J・R・R・トールキンの傑作小説をもとに、監督&共同脚本を務めたピーター・ジャクソンによって映画史にその名を刻んだファンタジー超大作「ロード・オブ・ザ・リング」三部作。2004年に日本公開された第三部『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(03)から20年の時を経て、同作の200年前の物語を映像化した『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』が12月27日(金)より公開される。10月11日には制作報告会見が東京都内で行われ、神山健治監督とプロデューサーのジョセフ・チョウが出席。手描きアニメによって「ロード・オブ・ザ・リング」に挑戦する作品となり、神山監督が「とにかく観ていただきたい」と力強く語った。 【写真を見る】『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』制作報告会見の様子 原作小説「追補編」に記され、大勢の敵を素手で屠ったという“槌手王(ついしゅおう)”ヘルムの伝説に着想を得た物語を描く本作。突然の敵襲を受け、王国滅亡の危機に陥る国、ローハンの運命は一人の若き王女ヘラに託された。最大の敵はかつて共に育った幼なじみのウルフ。“中つ国”の運命を左右する伝説の戦いの幕が上がる。「東のエデン」や「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「精霊の守り人」で知られる神山健治が監督を務め、製作総指揮には「ロード・オブ・ザ・リング」三部作を手掛けたジャクソン、同じく「ロード・オブ・ザ・リング」&「ホビット」の脚本を手掛けたフィリッパ・ボウエンもプロデューサーとして名を連ねる。「Studio Sola Entertainment」がアニメーション制作を担う。 実写映画三部作へとつながる物語を、日本のアニメーションによって制作するという壮大な企画だ。チョウは「その船のキャプテンとなる適任者は、どう考えても神山監督しかない」と迷いなく神山監督に打診したと回顧。神山監督は「これは大変なことになるなと思いました」と驚きつつも、「『ロード・オブ・ザ・リング』の三部作は大好きな映画。いちファンという気持ちで作品を観ていました。それを自分で映画として作れるのかと思うと、大変だろうなというよりも喜びが上回った。『ロード・オブ・ザ・リング』を監督できるなんて、こんなチャンスは生涯でもなかなかないだろうと思った。これはやるべきチャレンジだなと思った」と興奮しながら飛び込んだという。 「ロード・オブ・ザ・リング」三部作の知られざる200年前の世界を描くうえでは、「どうつなげようかという仕掛けもある」と実写映画へとつながる仕掛けについても試行錯誤したという神山監督。「スタッフにも映画を観てきた大ファンがいた。そういう人からすると『こんなところにこんな仕掛けがあるのか』と、ニヤッとするようなものを仕掛けられた。1本の映画ではあるけれど、三部作ともつながっている世界観の広がりを作ることができた」と自信をのぞかせつつ、実写映画三部作を手掛けたジャクソンやボウエンらと「一緒にやれたおかげ」と感謝していた。 こだわったのは、手描きアニメの手法を使うことだったという。神山監督は「三部作を観た時に、ものすごい映画だと思った。映像として観たことがないもので『すごい』『おもしろい』という印象があった。そこをなんとしても死守しないといけないというのが、引き受けた時に感じたこと」、「三部作を初めて観た時に『こんな映像を観せてもらえた』と思った、あの体験をもう一度してもらいたいという思いがあった」と本作に臨むうえで欠かせなかったのは、三部作に触れた時の感動や驚きを反映させることだったと強調。「使えるものはなんでも使おうと思った」と覚悟を口にし、「まずモーションキャプチャーで、2時間の映像を全カット、アクターさんに演じてもらった。その後3Dのキャラクターに置き換えて、さらにそれをベースに手描きのアニメーションに起こしていく」と制作過程を説明した。モーションキャプチャーのアクターへの演出、3Dアニメーションの演出、手描きによる作画のカットの演出、それらすべてに着手することになった神山監督は、「(着手してから)2年半の間に、この映画を3回監督したよう」と苦笑いを見せていた。 手描きアニメで挑んだ必要性について、神山監督はこう語った。「実際にニュージーランドの大自然を舞台に撮影をした部分や、実際に甲冑を着て戦ったり、走り回るすごさ。CGではあるけれど、ゴラムなどが本当にその場にいるようにスクリーンのなかに現れたこと」と三部作に感じたすごみについて分析し、「あのすごさをCGのアニメでやってしまうと、CGって大変なのに、苦労とすごみがなかなかスクリーンに映らないというのが、いままでやってきた僕の想い。手描きのよさは、『これを手で描いた』ということが潜在的に伝わる。大変なんだけれど、そのカットがきれいに完成していくとさらに映画にすごみが増す。三部作を初めて観た時と同じような生々しさ、エネルギーになっているなと感じる。実写が持っている力強さが、アニメーターたちが心を込めて描いた絵に宿っている。共通のものをひしひしと感じました」と実感を込めながら「とにかく観ていただきたい気持ちでいっぱい」「観たことがないものを、みんなに観てもらいたいという想いで作った」と熱っぽく語っていた。 取材・文/成田おり枝