【プレイバック’14】ビットコイン470億円消失! 〝疑惑〟のマウントゴックス社CEOを直撃した
10年前、20年前、30年前に『FRIDAY』は何を報じていたのか。当時話題になったトピックをいまふたたび振り返る【プレイバック・フライデー】。今回は10年前の’14年5月2日号掲載の「マウントゴックス社カルプレス社長直撃『ビットコイン持ち逃げは本当か!』」をお届けする。 【フツーの服だから写真使わないで】マウントゴックス社・カルプレス氏が恥ずかしがった〝普段着姿〟 ’14年2月28日、「ビットコイン」の取引所を運営する『マウントゴックス』(東京・渋谷区)は、ハッカーの攻撃を受けて85万ビットコイン(当時日本円換算で約470億円)と預かり金28億円を失ったことを明らかにした。同社は民事再生法の適用を申請し、事実上経営破綻。一時は全世界の流通量の80%を扱っていた取引所は閉鎖され、顧客が預けていた資産も〝消滅〟の危機にあった。当時の混乱ぶりを、どう報じていたのか。(以下《 》内の記述は過去記事より引用) ◆ゴックス社を4万円で売ろうとしていた 世界中を騒然とさせた大事件。だが、同社CEOのマルク・カルプレス氏(当時28)にはまだ余裕があったようだ。記事では知人の証言としてこんなコメントを紹介している。 《マウントゴックス破綻後も、フランス人の彼は目黒の超高級タワーマンションの最上階で、セレブな生活を続けています。レンジローバーなど3台の高級車を乗り回し、仲間を部屋に呼んでミーティングを重ねている。先日も、世界的企業の幹部とマウントゴックスの買収に関して会合を持ったと話していました。 現在、妻子とは別居中ですが、愛猫がいるので、寂しくないようです。やる気マンマンで 食欲も旺盛、次の一手に知恵を巡らせていたのですが……》 カルプレス氏は海外の投資家グループにゴックス社を「1ビットコイン(当時約4万円)」で売ろうとしていたと伝えられるが、上手くいかなかったようだ。 仮想通貨というものの概念すら、ほとんどの人が理解していなかったこの当時、実際の被害総額すら確定できずに裁判所による民事再生法の適用審査は難航を極めた。異例の調査期限延長となったあげく、4月16日に東京地裁は民事再生手続きの申し立てを却下、ゴックス社の破産は避けられない見通しとなった。 そんな状況下、その圧倒的なプログラミング能力で、それまで国家が持つ通貨発行権の外にあるサイバー空間では〝王〟のようにふるまってきたカルプレイス氏に対して疑惑の目を向ける人物が出てくるのも無理のない話だった。前出の人物とは別の知人の証言だ。 《実は、ハッキング被害が報じられる直前の今年1月頃、彼の日本人の奥さんが息子を連れてカナダに移住しているんです。昨年の10月末、カナダではビットコインをカナダドルで引き出すことができる、世界初のATMが設置されています。 それまで『息子の面倒を全然見ない』『女遊びが激しい』と彼に不満を漏らしてばかりいた彼女が、カナダ行きが決まった途端に、『彼はやっぱり天才よ』と手の平を返したようになったんです。ビットコインがパーになるのを予見した彼が、 そうなる前に奥さんに現金で引き出させたのではないか。そもそも、本当にハッキングされたのかすら怪しいのです》 この疑惑に対してカルプレス氏はどう答えるのか。本誌はゴックス社にTシャツ姿で現れた彼を直撃した。 《──フライデーです。カナダに移住した奥さんが、ビットコインを引き出しているのではないかという話がありますが。 「(流暢な日本語で)それはもともとの予定で。ビットコインとは関係ない」 ──ビットコインを現金で下ろせるのは、当時はカナダだけですよね? 「うん?ビットコインは関係ないです。彼女はもともと震災が起きる前、10年ぐらいカナダに住んでて。ボクも一緒に行く予定だったんですが、今回の件でちょっと行けなくなったというだけで」 ──持ち逃げしたのではない? 「まあ、たぶんそこはいろんな情報があるんだと思う。うちの奥さんもマウントゴックスでアカウントを持っていて、一応債権者にもなっていますが、ヘンな動きとかはしていません。彼女は向こうで、自分で仕事を見つけて働く予定です」 ――カルプレスさんほどの技術があれば、逆にハッカーもできますか? 「まあ、やろうと思えばたぶんできます(誇らしげ)」 ──先日、消失したはずの20万ビットコインを、あなたが発見したというニュー スもありました。凄い技術ですね。 「うん、まあ技術っていう問題じゃなかったんですね。昔のビットコインのソフトにバグがあって、たまにビットコインのソフトを使うときの残高が間違ってたりすることがあったんです。それを直すのに、最近のソフトを使って再スキャンしたら、そこに20万ビットコインの残高があったということなんですよ」 本誌の直撃にもまったく動じることなく、冷静に答えたカルプレス氏。彼が唯一気にしていたのは、この日Tシャツ姿だったことだけだった。 幼い頃から『幽☆遊☆白書』などが好きだったことから日本に興味を持っていたというカルプレス氏は’09年に来日。設立したITサービス会社の決済手段として使用できないかと相談されたことから、この年に誕生したばかりのビットコインと出会う。 その後、’11年にマウントゴックス社を買収して運営に携わるが、当初は主に技術者の間だけで取引されていたビットコイン市場には価格が上昇するにつれて投資家なども参入するようになり急拡大、世界最大の取引所に成長した。カルプレス氏がゴックス社を引き継いだ当時、2000人ほどだった利用者は’13年には100万人を超えている。急激な取引量の拡大にシステムが追い付いていない部分はどうしても否めず、’11年6月には個人情報が流出するハッキング事件も起きていた。 〝自作自演〟も疑われたカルプレス氏だが、真犯人は’17年にギリシャで逮捕されたロシア人ハッカーだという見方が現在は有力となっている。’15年8月にカルプレス氏は私電磁記録不正作出・同供用と業務上横領容疑で逮捕されたが、この横領容疑は’14年2月のビットコイン盗難に関するものではなかった。カルプレス氏は無罪を主張し、業務上横領については無罪となったものの、’19年3月に懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決となった。 また、いったんは破産開始決定をうけたゴックス社だが、ビットコインの価格上昇により’18年6月には民事再生手続きの開始が決定、債権者への弁済も昨年末から始まっている。マウントゴックスの閉鎖時には1万8280円まで下落したビットコインの価格は今年3月に1077万円を突破、5月9日現在で約961万円の値をつけている。債権はビットコインで弁済されるため、債権者は高額の差益を手にすることとなる。 誕生した当初は金融機関を経由しないために格安の手数料で世界中どこへでも瞬時に送金できる〝夢の通貨〟とうたわれたビットコインだったが、投機目的により相場が乱高下することなどから、本来の目的は失われてしまった。現在はITシステム開発会社・カルプレス研究所で社長をつとめるカルプレス氏も’18年8月の朝日新聞のインタビューで「ほかの仮想通貨は置いておいて、ビットコインだけを見ると、通貨として使うには無理があります」と語っている。
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