真剣に向き合うサッカーはこの大会が最後。「負けたら終わり」の覚悟を定めた帝京GK大橋藍が気合のファインセーブ連発で17年ぶりの全国勝利に貢献!
[12.28 選手権開幕戦 帝京高 2-1 京都橘高 国立] 真剣に向き合うサッカーは、この大会が最後だと決めている。だからこそ、勝ちたい。勝ち続けたい。かけがえのない3年間を一緒に過ごしてきたこの仲間たちと、見られる景色は全部見たい。そのためにも、絶対にまたこの国立に帰ってきてやる。 【写真】「イケメン揃い」「遺伝子を感じる」長友佑都の妻・平愛梨さんが家族写真を公開 「もう後悔がないようにやりたいですね。ミスもいっぱいすると思いますし、実際に今日の1失点目も自分のミスから失点してしまったので、そこはしっかり考えながらやりたいですけど、自分の中では後悔がないように終わりたいと思っています」。 15年ぶりに冬の全国へ帰ってきた帝京高(東京B)を最後尾から引き締める不動の守護神。GK大橋藍(3年=FC東京U-15深川出身)はようやくたどり着いた夢舞台の景色を1つ1つ忘れないように、その目に焼き付けている。 「意外と緊張しなかったですね。入場して、グラウンドで軽くボールを蹴ったりした時に、『今日は楽しめるな』と思いました。やっぱり国立競技場って本当に広くて、『ああ、ここでできるんだ』というワクワク感が大きかったです」。 日本サッカーの聖地・国立競技場で行われた高校選手権開幕戦。2年生だった昨年から帝京の正守護神を務めてきた大橋は、試合前から高揚感に胸を躍らせていた。待ちに待った全国の初戦。メインスタンドのゲートからピッチへ歩みを進めていくと、視界に応援席が飛び込んでくる。 「グラウンドに入った瞬間に黄色の応援席が見えて、『ああ、応援されているんだな』という実感がありましたし、テンションもメチャメチャ上がりました」。最高の応援に、最高の会場。奮い立つ。もうやるしかない。 1点をリードしていた前半22分。京都橘に決定機。ディフェンスラインの裏にボールを入れられ、飛び出した選手と1対1のシチュエーションを迎えたが、大橋は一瞬で自分がたどるべき最適解を弾き出す。 「裏に抜けられて、ボールが浮いてきた瞬間に、自分の立ち位置が結構前の方だったので、『股を狙われないように、閉じながら行こう』と思って、そのまま突っ込んでいったら身体に当たりました」。全身を投げ出したビッグセーブ。同点弾は許さない。 実は1週間前の練習試合でヒザを痛めていた。一時は全国大会の出場も危ぶまれていたが、吉田正晴トレーナーの献身的なサポートもあって、何とかこの晴れ舞台に立つまでにこぎつける。「ちょっと怖かったですけど、今日はアドレナリンで動いてくれたのか、ヒザの調子も良かったですね。自分のヒザながら頑張ってくれたかなと思います(笑)」。 後半11分。再び京都橘に決定機。スローインの流れから右サイドを崩され、複数人が絡んだアタックからエリア内へと侵入されたが、大橋は状況をいたって冷静に見極めていた。 「あの体の開き方のシュートだと、『ニアではなくてファーなのかな』という予測で飛んだら、ドンピシャで当たって止められました。自分はどちらかと言うと、反応するより読む方が多いので」。完璧なシュートストップ。ここも同点弾は与えない。 守護神の奮闘に、チームも燃える。後半33分にはセットプレーの流れから追い付かれたものの、その2分後にはFW宮本周征(2年)がすぐさま勝ち越しゴールをゲット。40+3分に浴びた強烈なミドルシュートは、クロスバーが救ってくれる。 「国立は試合を見に来たことはありましたけど、ピッチに入ったら臨場感が違いました。このプレッシャーの中で、みんなに見られながらプレーするなんてなかなか味わえないですし、自分の中でもこれを目指してやってきたところがあったので、もう楽しかったの一言ですね」(大橋) ファイナルスコアは2-1。帝京にとっては実に17年ぶりとなる全国での白星。背番号1のユニフォームを纏ったゴールキーパーも、チームメイトと勝利の余韻をしっかりと噛み締めた。 小学生時代に在籍していたレジスタFCでは、春のチビリンピックで日本一も経験。中学時代にはFC東京U-15深川でハイレベルな仲間と切磋琢磨するなど、常に各年代の第一線で戦ってきた大橋だが、大学では真剣なサッカーを続けるつもりはないという。 「自分はそこまで身長がないので、これからの将来を考えても、大学で4年間サッカーをやるよりは、何か違うことをやってもいいのかなって。現実をちゃんと見た時に、『サッカーで夢は見れないかな』と思ったんです。正直、高校に入る時からそういう想いはありましたね」。 高校卒業後は、アスレティックトレーナーや柔道整復師を目指す決意を固めている。「帝京科学大学のAT(アスレティックトレーナー)の人たちが帝京のサポートをしてくれているんですけど、自分がケガをしてリハビリをしている時に、そういう方々に支えられていることを実感したんです。もう大学ではサッカーをやらないと決めていたので、『何をしようかな?』と考えた時に、『そういう道に回ろうかな』と決意しました」。 チームに帯同してくれている吉田トレーナーの存在も、その決断を後押ししている。「今回も吉田さんがしっかり自分をケアしてくれたので、あの人がいるだけで自分の気持ちも変わるというか、ヒザのケガをした時も『自分は終わったんだ』と思って寝れなかった時に、自分と話してくれて、サポートしてもらったことで前向きになれたので、本当に感謝しています」。 ここから先は負けた時点で、小学生から続けてきたサッカーキャリアの幕が下りる。大会前は気負っていた部分もあったが、実際にこの日のピッチに立ってみて、少しだけ心境に変化が訪れていたようだ。 「『負けたらもうサッカーを引退するんだ』と考えた時に、負けたら終わりというプレッシャーの中で今日もピッチに立ったんですけど、『もう後悔がないようにやり切ろう』という方に切り替わったのかなと。精一杯プレーして、自分の力を出し切って負けたら、それはそれでしょうがないかなって。それで結果が付いてきたら一番いいですし、そういう意味でも、この国立のピッチに立てて良かったなと思いました。だから、やっぱり負けられないですね。頑張ってここに戻って来られるようにしたいです」。 帰ってくる。かけがえのない3年間を一緒に過ごしてきたこの仲間たちと、また国立の舞台に帰ってくる。あふれるパッションでカナリア軍団を力強く支える正守護神。大橋藍は今まで積み上げてきたすべてを目の前の試合に注ぎ込み、帝京のゴールマウスに立ち続ける。 (取材・文 土屋雅史)