現状と戦い続ける女性編集者の訴えが胸を打つ「失敗の研究―ノモンハン1939」…ボニー&クライド思い出させた「三人吉三廓初買」
祐成秀樹 劇団チョコレートケーキの座付き劇作家、古川健が青年劇場に書き下ろした「失敗の研究―ノモンハン1939」が出色だった。1970年の出版社を舞台に、長期連載を目指す新人編集者の沢田(岡本有紀)が(日本軍とソ連軍が衝突した)ノモンハン事件の関係者に取材を重ねるうちに、多くの命を犠牲にした大義なき事件の実体が浮かび上がる。
山内則史 女性の社会進出のドラマの中に近代史を組み込んだ構造が面白かった。日本軍の愚かさ、関東軍の傍若無人ぶりは、会社組織や官僚組織など現代社会の中に焼き直しのような形で残存していると思わざるを得ない。そんな現状に対し、戦い続けることの必要性を沢田が訴える最後の場面に胸を打たれた。
武田実沙子 河竹黙阿弥の世話物を木ノ下歌舞伎が上演した「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」は休憩含め5時間20分の大作だが、長いとは全く感じなかった。通常、歌舞伎では3人の盗賊の話だけが抜粋上演されるが、キノカブ版では盗賊に関係のある花魁(おいらん)と商人の物語も上演。因果関係、人間関係がより深く伝わった。
小間井藍子 非道だけど義理人情に厚い3人の吉三。俳優たちの鮮やかなせりふ回し、立ち回りも相まって実に魅力的だった。演出(杉原邦生)のテンポも良く、人々がなぜこの物語にひかれるのか理由がよく分かった。お嬢吉三(坂口涼太郎)とお坊吉三(須賀健太)の美しく壮絶なラストは希代の犯罪者カップルを描いた映画「俺たちに明日はない」のボニー&クライドを思い出させた。
祐成 藤田俊太郎が初演出したシェークスピア劇、「リア王の悲劇」はさすがの出来栄え。副筋の主要人物エドガー、武人らを女性にするなど登場人物をジェンダーレスにとらえた上で、リズミカルなせりふ運びや生き生きとした演技を連ねて、古典を今の物語のように見せた。人間味あふれるリア役の木場勝己、道化と三女コーディーリアの2役を演じた原田真絢ら出演者誰もが好演した。