現状と戦い続ける女性編集者の訴えが胸を打つ「失敗の研究―ノモンハン1939」…ボニー&クライド思い出させた「三人吉三廓初買」
小間井 「ジェンダーレス」は9月上演舞台のキーワードかもしれない。俳優座が桐朋学園芸術短大と共同制作した「セチュアンの善人」も本来は女性が演じる主人公シェン・テを男性の森山智寛(ちひろ)が演じた。演出は田中壮太郎。心優しい女性シェン・テの主張には誰も耳を貸さないのにシェン・テが男性に化けて威圧的に振る舞うと皆、抵抗できない。森山の巧みな演じ分けで現代社会でもありうる状況がリアルに伝わった。また、重要な役を学生が好演し、プロとアマの垣根も越えた作品に仕上がっていた。
祐成 山西竜矢が脚本・演出を務めるユニット、ピンク・リバティの新作「みわこまとめ」は恋愛依存の実和子(大西礼芳)の転落を描く悲喜劇。男たちにひどい目に遭わされてもめげない実和子の心の動きをスリリングに描き出した上に、本音を語り合える友人たち(うらじぬの、村田寛奈)とのやり取りもうまく絡めていて終始引き込まれた。
山内 「流れる血、あたたかく」は、秋葉原無差別殺傷事件に想を得て書いた三上陽永の戯曲を劇団チョコレートケーキの日澤雄介が演出。事件で死刑になった男は、高校で三上の1年先輩だったとのこと。母親の過剰な期待に応えられず、居場所をなくし、孤独地獄に落ちていく男が持っていた「普通さ」に、胸が苦しくなった。狭小な舞台空間を、シンプルな道具を使って様々な場面に変えていく見せ方の工夫も感じられた。
武田 2018年結成の若い劇団、かるがも団地の「三ノ輪の三姉妹」は、余命わずかの母親を前にした姉妹の溝が描かれる。柔らかな空気感で進む物語が印象的だった。脚本・演出は藤田恭輔。現在と過去を行き来しながら3姉妹1人ずつに焦点を当てて進む章立てで、自然体の姉妹たちに今の時代らしい若者像を見た。