『ブギウギ』は女性同士のエンパワーメントを描く “喜劇王”タナケンも怒涛の名言連発
ずれた間の悪さもスズ子(趣里)のタイミング
ジャズのフィーリングがつかめなくて悩んでいた時分、羽鳥はスズ子が自分で気づくまで練習を繰り返した。基本的に干渉しない人だと思うが、今回も演技が専門ではない羽鳥は出しゃばって助言したりしない。しないけれど、羽鳥との会話からスズ子はヒントを見出した。 本職の役者と「間が違う」ことを羽鳥は面白いと興味を示した。「少しくらいならリズムがずれても面白いだろ。そこからまた違うノリが生まれるかもしれない」。スズ子は得るものがあったのだろう。マネージャーの山下(近藤芳正)に「もうこれからは好きにやります」と宣言した。 結果的にタナケンのOKが出るのだから不思議なものだ。ずれた間の悪さもそれがスズ子自身のタイミングなら、共演者とのかけ合いで何倍にも魅力が引き出される。タナケンは舞台上で生まれる面白さを追求しており、スズ子が持ち込んだ大阪弁と勢いのある発声が喜劇王の嗅覚を刺激したのである。 「面白けりゃいい」「お客様に当たり前のものを見せてもつまらない」「僕を誰だと思ってるんだい。喜劇王タナケンだよ」「舞台は役者のもの。何をやっても僕が全部受けてあげるよ」等々、これまでの寡黙ぶりが嘘のような怒涛の名言連発にさすが喜劇王とうなったのは筆者だけではあるまい。ハプニングさえ芸に取り込むタナケンとスズ子の舞台は躍動するのか。いよいよ舞台の幕が上がる。
石河コウヘイ