ドジャースと大谷翔平はポストシーズン不利のデータを覆せるか?~第1シード、ホームチーム低勝率の近年の傾向~
【ドジャースは打撃で押しきれるのか】 その上で、今年のドジャースにはアキレス腱ともいえる課題がある。ご存じの通り、ケガによって先発投手が次々に離脱し、絶対的なエースが不在の状況だ。「ピッチングが王者を決する」といわれるスポーツにおいて、戦う前からかなりの不利を抱えている。 そもそもドジャースは近年、直近15試合のポストシーズンで、先発投手が6イニング目も投げた試合がひとつもなかった。特に昨年は悲惨で、クレイトン・カーショー、ボビー・ミラー、ランス・リンが早々とノックアウトされた。彼らの合計イニングはわずか4回2/3、失点は13。公式戦で16ゲーム差をつけていた同地区のアリゾナ・ダイヤモンドバックスにスイープされる屈辱を味わった。 今年はジャック・フラーティ、山本由伸、ウォーカー・ビューラー、ブランドン・ナックの4人が先発予定となっている。昨年よりは改善が期待できるものの、絶対的なエースが不在というのは同じ。不利な状況を打破するためには、打線が打って、打って、打ちまくるしかない。しかし実を言うと、過去2年もゲームプランは「打ち勝つこと」だった。 2022年はムーキー・ベッツやフレディ・フリーマンに加え、トレイ・ターナー(現フィラデルフィア・フィリーズ)もいて公式戦で111勝。チームOPS(出塁率+長打率)は.755で30球団中1位、打撃陣は過去10年のドジャースで最強と言われた。しかしポストシーズンではダルビッシュ有やブレーク・スネルのサンディエゴ・パドレス投手陣に抑えられ、4試合で12得点、打率.227だった。 2023年もベッツとフリーマンがナ・リーグのMVP投票で2位と3位に入る活躍で攻撃陣を牽引し、30球団中2位の906得点を挙げた(1960年以降のドジャースで最多得点チーム)。しかしながら地区シリーズでは3試合で6得点、チーム打率も.177。牽引役の2人も21打数1安打と沈黙。ベッツは「準備は万全だったが何もできなかった」と落胆している。だから今年こそは打ち勝つと言われても、ドジャースファンの心には不安が募るばかりだ。 無理もない。地区シリーズではパドレスとの対戦が濃厚だが、先発ローテーションにディラン・シース、マイケル・キング、ダルビッシュ有といった実力派が揃っている。相手がブレーブスだったとしても、サイ・ヤング賞候補の左腕クリス・セールなど今季のナ・リーグNo.1クラスの侮れない投手陣が待っている。 ナ・リーグ優勝決定シリーズに進めたとしても、エース、ザック・ウィーラー率いる強力投手陣のフィリーズが相手となる可能性が高い。今年34歳のウィーラーは、8月以降の10試合で防御率1.80、相手打者のOPS(出塁率+長打率)を.538に抑え、投手としての絶頂期を迎えている。 もしドジャースがこういった好投手を次々と打ち砕き、勝ち進むとすれば、大谷翔平が9月後半のように、バットと足で超人的な働きを見せるしかない。しかしながらバッターが打撃で好調を長期間維持するのは難しい。大谷のようなパワーヒッターなら、なおさらだ。大谷自身も9月17日の48号本塁打のあと、「いつどんな時でもちょっとしたズレで(打撃は)崩れてくるものですし、持続するのは難しいかなと思います」と認めていた。 とはいえ公式戦終盤の大谷の圧巻のパフォーマンスを振り返ると、何が起こるかわからないという期待も膨らむ。大谷は2021年から2023年に、二刀流は不可能とのメジャーの常識を打ち破ったし、今年は打者専念で前人未到の「50-50」を達成。大谷翔平という野球選手に、過去のデータは当てはまらない。
奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki