デフレ、それともインフレ? 人口減少が物価にもたらす現象を再考する
日本の人口減少・少子高齢化は、さまざまな問題を生み出していると言われますが、その中でも「デフレの要因になっている」という議論をよく耳にします。 一方、いま日本経済が直面している問題、すなわち人手不足に鑑みると、人口減少がデフレを招くという考え方は正しいのか、再考する必要がありそうです。
総人口は9年連続の減少
まず、日本の人口動態について見てみましょう。総人口は9年連続の減少となり、2060年には8674万人まで減少する見通しです(「平成27年国勢調査人口速報集計」より)。加えて、2025年には団塊の世代全てが75歳以上の後期高齢者となり、超高齢社会に突入していきます。また、2015年の合計特殊出生率は1.46と2005年の1.26より上昇しているものの、人口維持水準とされる2.07を大幅に下回ったままです。
「人口減少=デフレ」の論理とは?
では、人口減少がデフレを招くという話は、どういう論理か考えてみましょう。人口減少は消費(住宅投資を含む)のパイが小さくなることを意味しますので、そうした予想が成り立つ下では、人々が将来の経済成長に懐疑的になると言われています。企業は生産能力の拡大を抑制しようとするため、投資が手控えられ経済活動が縮小しがちになります。これは、ここ数年の業績拡大局面で設備投資が伸びなかったことの理由として、しばしば指摘されてきました。 ところで、一般的に物価は経済の体温と言われており、経済成長率低下は物価下落を招く傾向にあります。リーマンショック後から2012年頃まで低成長と物価下落が続いたとき、「日本は人口減少が続く下で経済規模が縮小するから、これからも物価は下落する」との指摘がなされ、実際それに多くの人が納得感を得ていました。当時は「人口減少=デフレ」との見方が優勢だったように思います。
それを踏まえた上で、現状の日本経済を整理しましょう。2016年4月の失業率は3.2%と歴史的低水準にありますが、それでも企業は採用意欲が旺盛です。有効求人倍率は1.34倍と約25年ぶりの高水準に達し、大きな話題を呼びました。 このような人手不足感は、日銀短観の雇用人員判断DIを見ても一目瞭然です。DIは2013年から「不足超」に転じ、直近の調査では90年代前半と同程度の水準にあります。新卒採用市場においても、企業間での学生の取り合いが激化し、学生側の売り手市場となっているとの指摘がありました。