デフレ、それともインフレ? 人口減少が物価にもたらす現象を再考する
このように現状の日本経済は人手不足感が極めて強いのですが、このような状況が訪れるとは、数年前までほとんど予想されていませんでした。要するに、人口減少が労働市場に与える影響を過小評価してきたわけです。
人口減少が物価に与える影響を再考する
この反省を踏まえ、需給ギャップと物価の関係に注目して、人口減少が物価に与える影響を再考します。需給ギャップとは、需要と供給能力の差で、この図では上に行くと需要超過の状態に近づきます(以下、改善という)。それを消費者物価と比較すると、両者に一定の連動性が認められます。要するに、モノ・ヒトが足らない状態に近づいているため、最近は物価が上昇基調にあるというわけです。なお、消費者物価は原油安などの影響により前年比でマイナスとなっていますが、ここで示したのは全体の物価から食料とエネルギーを除いた、いわゆるコアコア物価です。 こうした見方に基づくと、人口減少が人手不足につながり、それが結果的に賃金上昇と物価上昇をもたらすとの解釈も可能になります。企業は人手不足を解消したいとき、賃金を引き上げて雇用者を確保する必要がありますが、賃金が上昇するということは、物価上昇につながるからです。これは日銀の黒田総裁も同様の指摘をしており、「物価と賃金は理論的にも実証的にも概ねパラレルに動く」と繰り返し発言しています。賃金が明確に上昇していない現状では決着がついていないのですが、端的に言えば、「人口減少はインフレ要因」ということです。 もっとも、人口減少が続くにつれて、国内市場が縮小するのは容易に想像がつきます。そうなれば人手不足は自然に解消され、経済の体温が低下する可能性もあります。人口減少が物価にどのような影響を与えるかは、その時々の状況によって柔軟に議論する必要があるでしょう。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。