不確実性高まる…韓国大手SK・LG、キャッシュフロー悪化
「現金王」サムスンも保有現金が減少 現代自動車だけが売上額でサムスンを超えて疾走
2カ月先に迫った米国大統領選挙から、人工知能(AI)バブル論、電気自動車(EV)のキャズム(一時的な需要鈍化)、中国による供給過剰まで、韓国の主力産業全般に暗雲が立ち込めている。これに対して企業側も流動性の確保に躍起になっている。しかし、サムスン・SK・現代自動車・LGの4大グループのうち半分は、現金事情が悪化していることがわかった。グループごとの温度差が激しい。 11日時点での韓国企業評価など韓国の3大信用評価会社の資料によると、4大グループ(金融系列会社を除く)の今年第1四半期(1~3月)末時点での余剰キャッシュフローの合算額はマイナス1兆5000億ウォン(約1600億円)だ。余剰キャッシュフローは、企業が営業で稼いだ現金から設備投資額を引いて余った額。第1四半期に4大グループ全体の売上額は293兆9000億ウォン(約31兆2000億円)で、半導体の回復などに後押しされ、昨年第1四半期に比べて7.8%(21兆4000億ウォン、約2兆3000億円)増えた。しかし、肝心の内部の利用可能な財源は減ったという意味だ。 ■足元に火が付いたSK まず足元に火がついているのはSKだ。SKグループの第1四半期末時点での純借入額は85兆9000億ウォン(約9兆1000億円)で、昨年同期(82.0兆ウォン、約8兆7000億円)比で4兆ウォン(約4000億円)ほど増えた。2021年末(55兆4000億ウォン、約5兆9000億円)と比較すると50%以上急増した額だ。純借入額は全借入額から企業が保有する現金と現金性資産を引いたもので、財務安定性を判断する重要な指標だ。昨年、ハイニックスの大規模な損失とともに、低金利期間中に大々的に実施したバッテリーなどの新事業への投資が足を引っ張った。 SKグループの2020~2023年の外部への資本投資額は15兆ウォン(約1兆6000億円)に達する。しかし、成果は思わしくない。1兆ウォン(約1100億円)を超える含み損が発生した米国水素企業「プラグ・パワー」への投資が代表的だ。事業着手から昨年までに投資金を累積で約23兆ウォン(約2兆4000億円)投入しても、損益分岐点を越えることができなかったバッテリー・素材事業は、流動性悪化の中心的な材料だ。 かつては毎年1兆ウォンを超える利益を出した「孝行事業」である石油化学事業も不振に陥っている。半導体の景気回復やグローバル企業のAI投資拡大などによって昨年末から黒字に戻ったハイニックスに大きく頼っている状況だ。バッテリー事業の黒字転換の時点と半導体の実績改善幅が、グループの財務安定性を左右する最大のカギになる見通しだ。ナイス信用評価は「半導体とバッテリー部門の投資負担の高さを考えると、グループの有意味な借入額の縮小は、短期間のうちには難しいだろう」とした。SK側はハンギョレに「今年第2四半期末時点での純借入額は、第1四半期末に比べ小幅ながら減少した」と明らかにした。 ■不安定なLG…現金を減らしたサムスン LGグループの事情も厳しい。今年3月末時点での純借入額は42兆8000億ウォン(約4兆5000億円)で、前年同期(36兆3000億ウォン、約3兆9000億円)に比べ大幅増となった。過去5年間では最大規模だ。 LGグループの悩みは、グループ全体の売上の3分の1ほどを占める化学事業だ。石油化学部門が需要不振と中国の供給過剰の直撃弾を受け、バッテリーも実績鈍化が予想されるからだ。今年の第1四半期にグループが営業を通じて稼いだ現金から設備投資額を引いた余剰金(余剰キャッシュフロー)はマイナス5兆8000億ウォン(約6200億円)に達する。 韓国信用評価は「LGグループは、営業を通じた現金創出力が悪化したなかで二次電池(バッテリー)やディスプレイなどの主力事業への高い投資負担が続き、財務負担が大きくなった」と診断した。 資産総額基準で財界1位のサムスングループの今年第1四半期末時点での純借入額は、マイナス80兆4000億ウォン(約8兆5000億円)となった。外部から借りた額より保有現金が80兆ウォン多いという意味だ。SKやLGとは事情が明確に違うわけだ。ただし、純現金(現金性資産-借入額)の規模は、昨年第1四半期末の99兆7000億ウォン(約10兆6000億円)からわずか1年で約20兆ウォン(約2兆1000億円)減少した。サムスン特有の「無借金経営」は維持されたが、保有現金が減少しているということだ。 保有現金が数十兆ウォンも減少したのは、半導体の不振と大規模な投資のためだ。グループの売上の70%以上を占める電子事業の中核である半導体は、昨年、営業赤字を14兆9000億ウォン(約1兆6000億円)出し、今年上半期に8兆4000億ウォン(約9000億円)の黒字に戻った。一方、半導体中心のグループの設備投資(資本的支出、CAPEX)の規模は、年間で60兆ウォン(約6兆4000億円)前後に達する。サムスンは、中心的な現金創出源(キャッシュカウ)である半導体事業の実績回復が、グループの流動性に絶対的な影響を及ぼす。現時点での財務条件は底堅いが、半導体の景気変動によっては、現金がさらに減少の可能性も残っているわけだ。 KB証券リサーチのキム・ドンウォン本部長は「スマートフォンとコンピューターの販売不振で、今年下半期のメモリー出荷量と価格上昇は当初の期待値を下回るだろう」との見通しを示した。下流部門の需要不振と在庫累積などで、サムスン電子の今年の利益も予想より減少する可能性があるということだ。 ■疾走する現代自動車 現代自動車グループは昨年の全売上額が402兆ウォンとなり、財界1位のサムスングループ(375兆ウォン、約39兆8000億円)を追い抜いた。現代自動車・起亜は昨年に完成車730万台を売り、日本のトヨタ、ドイツのフォルクスワーゲングループに続く世界販売台数3位となったおかげだ。 グループ売上の約80%を占める自動車部門の販売・実績の好調は、財務にもそのまま反映された。現代自動車グループが保有する純現金は、今年第1四半期末時点で27兆7000億ウォン(約2兆9000億円)で、前年(19.0兆ウォン、約2兆円)に比べ約9兆ウォン(約9500億円)増えた。「現金王」であるサムスンには至らないが、新規投資の余力は十分あるわけだ。 EVのキャズムの余波も、ハイブリッド自動車(HEV)の販売拡大などで乗り越えていくかたちだ。現代自動車・起亜の上半期の全世界におけるEVの販売台数は20万台にすぎなかったが、HEVの販売台数はその2倍の41万台に達した。「THAAD問題」に直面して需要が急減した中国の代わりに、米国・インド・東南アジアなどを集中攻略して販売台数を挽回することに成功した。結果的には、中国市場で現地のEV攻撃から事前に待避する「予防薬」となった。ただし、現代自動車は中国市場の再攻略に出るなど、高速成長する中国製EVとの戦いは避けられないものとみられる。 パク・チョンオ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )