イノシシのジビエは「害獣ビジネス」か「天からの恵み」か
脂が乗って柔らかくおいしい
このイノシシの肉を生産しているのは福井市西部の殿下地区にある「ふくいウエストサイドジビエの会」です。代表の渡辺高義さん(69)は、家業の畜産を営むかたわら、仲間約10人とともにイノシシ猟に携わってきました。殿下地区は越前海岸に近い山中にあり、ほかの地方と同じくイノシシの害に悩んできました。 福井市の事業としてジビエ施設が整備されたのが2008年。ここを拠点に渡辺さんらがイノシシやシカの駆除を行うとともに食肉を生産する活動をしています。「害獣ビジネス」という言葉のイメージとは違って、渡辺さんにはがつがつとした様子がありません。「いくら利益をあげたかって? あまり考えたことがないな」。 渡辺さんのイノシシ猟の8割は檻(おり)を使って捕獲するのだそうです。「鉄砲を使うこともありますが、追い込みや何やらで一頭を追うのに4、5人がかりになります。また弾が背中に当たると肉の大部分が使えなくなってしまいますので」と話しました。 イノシシ一頭あたり、体重の3割くらいの重さの肉が確保できるのだそうです。豚は脂が乗り、サシも入っているため、体重の7割の肉ができるのに対して、イノシシは半分ほどの重さしか確保できません。「イノシシは筋肉質なんですよ。豚足のようなゼラチン質もありません」と渡辺さん。 狩猟期間に捕れたイノシシ肉は「脂が乗っており、柔らかくておいしい」とのことですが、害獣の駆除期間(4月~10月)をのぞき、イノシシ1頭あたり1万4000円の報償費(成獣の場合)は支払われません。また、解体の手間賃として1頭1万円の費用がかかるといいます。確保した肉は福井県内のぼたん鍋屋さんやフランス料理店に卸されますが、採算は厳しいと言います。
あるときにおいしくいただく「天の恵み」
イノシシ肉をビジネスにしようと考えた場合、芝蘭の料理長は、3つの課題を挙げます。まずは、安定供給できるか、次に小ロットでこまめに調達できるか、そして最後に送料の問題です。「それさえできれば、売り方は私たちの工夫しだいです」と中洞さん。また、精肉の美しさにも課題感を持っています。料理店としては、ブロック肉をスライスするのは手間なので、スライス肉の方が楽なわけですが、端がボロボロになっていたのでは商品として売りにくくなります。 ジビエは安定供給が課題というものの渡辺さんは「最近はイノシシの駆除ができてきたので数が減ってきたが、逆にシカの数が増えてきた」と話します。害獣としてのイノシシ・ジビエは、駆除されてはじめて食肉になるのであって、決して人間の思い通りにはならず、計画的に確保できる食肉ではないということなのです。 「害獣ビジネス」は、販路を広げることを最大の目的に、大量消費社会に組み込む類の商売ではないのでしょう。福井市の有害鳥獣対策室でも「有効活用が目的ですので、ビジネス性までは求めていません」と話します。自然を中心にした生き方に思いをはせる食材として、あるときにおいしくいただく。きっと、そんな「天からの恵み」なのです。 ---------- 店名:神楽坂 芝蘭(チィラン) 住所:東京都新宿区神楽坂3-1 クレール神楽坂2 2F 電話:03-5225-3225 定休日:無休