アニメファンが『虎に翼』で初めて朝ドラを完走 “しんどすぎない”脚本が観やすさの鍵に
『虎に翼』(NHK総合)が幕を閉じた。振り返れば半年前、朝ドラ未体験だった筆者の耳に舞い込んできた「どうやら『虎に翼』が面白いらしい」という評判。 【写真】今見ると幼い! 女学校で着物姿の寅子(伊藤沙莉) 視聴を始めた当初は、アニメライターの筆者にとって、脚本家・吉田恵里香と言えば『ぼっち・ざ・ろっく!』や『神之塔 -Tower of God-』などのアニメ作品のイメージが色濃かった。しかし、毎回15分という視聴には手軽な尺も相まって、濃密な半年間はあっという間に過ぎ去っていった。こうして、『虎に翼』は筆者にとって初の「朝ドラ完走」を経験させてくれたドラマとなったのである。 本作で印象的だったのは、法曹界を描くシリアスなパートと、やや大袈裟でコミカルな寅子(伊藤沙莉)の“アニメっぽい”リアクションの絶妙な緩急だ。最初は話数の多さから離脱してしまうのではないかと思ったが、地獄を進んでいく寅子の先が毎話気になる展開で、話数が多くとも観やすく感じた。おそらく、普段朝ドラを観ない層でも、同様の印象を持った人は多いのではないだろうか。この作品を通じて、朝ドラの新たな魅力を発見できたのは大きな収穫だった。 最初は女性差別やフェミニズムがテーマかと予想していたが、蓋を開けるとややニュアンスが異なることにも驚かされた。本作を貫くのは「すべて国民は法の下に平等」という精神。まさに憲法第14条を体現したようなドラマだった。 しかし「事実婚」「夫婦別姓」「LGBT」など、現代の議論にも通じる問題をドラマに巧みに織り込み、多様な要素を拾い上げているからこそ、逆説的に見えてくる課題もあるように思う。そういう点で、今回『虎に翼』が異例であることはさまざまなところで言及されていたが、やはり戦後に差別で本当に辛い思いをされただろう方々がいたことを考えると、差別に対してもう少し違うスポットライトの当て方もあったのではないか。 戦争による死別などは描かれているものの、戦争で大きな傷を負った人や、戦後の混血児問題など、もう少し寄り添うべき差別問題があったはないかという疑問が浮かんでしまう。三淵嘉子の人生にどこまで寄せるのか、当時の時代背景のどんな部分を切り取るのか。これらについては様々な意見があるに違いない。 ■『虎に翼』がアニメのように親しみやすい理由 とはいえ、寅子の日常が当時の時代を準えながらも“しんどすぎない”リアリティのさじ加減があったからこそ、私のようなライトなドラマファンにも本作は構えずに観ることができたのかもしれない。シリアスな場面は主に法廷や裁判所が絡む展開に限られ、寅子の日常では、周りの人々が一生に関わる苦しみを抱き続けるようなケースはほとんどない。みなそれぞれの場所で生きる意義(それが女性の社会進出という枠組みに限らずとも)や幸福を見出し、前を向いて生きている。 本作が現実の法律問題を扱いながらも、どこかアニメのような親しみやすさを醸し出しているのは、先ほど触れた寅子の大袈裟でコミカルなリアクションに加え、法廷シーン以外の日常パートがそうした印象を生み出しているのだろう。 その集大成とも言えるのが、最終話だ。平成11年を舞台に、ヒロイン寅子が幽霊として登場する展開にはさすがに驚かされたが、寅子の霊が朝からラジオ体操をしたり、優未(川床明日香)を見守る姿には、思わずクスッと笑ってしまった。エンドロールでは、これまで寅子を見守ってきた人たちが大集合。半年間共に歩んできたキャラクターたちが次々と登場し、それぞれの姿に思わず目頭が熱くなる。彼らへの愛着が、これほどまでに深まっていたことに気づかされた瞬間だった。 初めての朝ドラ完走をこの作品で果たせたことを、心から嬉しく思う。朝ドラ初心者だった筆者にとって、『虎に翼』は理想的な入門編となった。寅子たちと共に笑い、考え、時に涙するーーそんな贅沢な時間を過ごせたことへの感謝とともに、新たな朝ドラとの出会いを心待ちにしている自分がいる。
すなくじら