なぜFZMZはVRで“ゲリラライブ”を開催したのか HONNWAKA88×制作陣が振り返る、1st VRライブ『DEEP:DAWN』の裏側
ハイクオリティな出音で圧倒した怒涛の音響演出 キモは“現地調整”
――『DEEP:DAWN』では、シーンごとに音の聴こえ方が変わるなど、非常に丁寧な音響演出を仕掛けていたのが印象です。音響演出について、どのような工夫をされたか、ぜひお聞かせください。 玉田デニーロ:前提として、VRライブにおける音響の手法は、大きく2つに分かれると思っています。まず一つが、音源がそのまま耳に聴こえてくる「2D」と呼ばれる手法、いわばステレオですね。もう一つが、音源の発生位置と聴く人の位置に応じて、左右別々に聴こえてくる「3D」と呼ばれる手法です。「立体音響」や「空間音響」のような呼ばれ方をしている場合もあります。 そして、今回はバンドライブなので、ライブハウスに行ったときのような聴こえ方がベストだと思い、音響設計をしました。具体的には、出音を5.1チャンネルのサラウンド音声に設定し、映画館のように前方にアテンションがありつつも空間全体から音が聴こえるような調整を行いました。ここに演出に合わせた効果音などを足していき、“ライブ感”を増強させています。 ――2曲目の『Danger Danger』は特にステージを意識させられる音響でしたね。一方1曲目では海中に飛び込むと音がくぐもるような効果も差し込まれ、臨場感が強かった印象です。 玉田デニーロ:VRライブの音響は、PAまたはSRの方が行う音楽ライブの音響、効果音などを付け加えていく映画館の音響、よりデフォルメしてわかりやすく楽しいエンタメへと落とし込むショーやテーマパークの音響などが、複雑に入り組んで共存しているような気がします。 そのうえで、ライブの音って大きい方が満足度が高い気がするので(笑)、必要なところで大きくする調整はかけていました。FZMZは、ジャンルとしてはラウドロックに分類されるような、ヘビーなギターサウンドが特徴の音楽なので、空間音響とはちょっと噛み合わせが悪いんですよね。エンジニア的な言い方になりますが、ギターやベース、ドラムとかが耳に張り付いていてほしいんですよ。音の圧が必要なジャンルだと思います。 でも、空間音響にしてしまうと出音とユーザーの耳の間に“隙間”が生まれて、音圧が弱まってしまう。このあたりを両立させるためのバランスを探りました。全体的に空間で鳴っている感じはするけど圧はちゃんと強いとか、そのうえでボーカルがちゃんと聞こえるとか……僕はいまでもライブハウスでバンドをやる人間なんですが、そのときに得られる満足感がどこにあるのか、強く考えながら設計していました。 ReeeznD:ちなみに玉田さんには、今回用に開発した『VRChat』内で音響調整ができるアセットを使ってもらい、VR空間内で調整を重ねてもらいました。急遽突貫で1日で作った、しょぼいPA卓のようなもので、めちゃくちゃ触りにくいものだったのは恐縮ですが……。 玉田デニーロ:やりましたね(笑)。現場でツールを動かしながら、「これだ!」と思った位置で得られたパラメータをカメラで撮ってReeeznDさんに送信する、といった作業を進めていました。 それでいうと、実はシーンごとに“出音が鳴る位置”が変わっているんですよ。最初、FZMZメンバーが巨大化して現れるシーンでは、メンバーのスケールを考慮して、スピーカー位置はかなり高い場所に配置しています。そして、建物のがれきが残っている後方は反響音を近めに設定して、相対的にメンバーがいる前方がひらけて聴こえるよう調整しています。また、その後のシーンではクラゲ型スピーカーの位置に音源を配置しています。 ――ソフトウェアで調整するのではなく、現地調整が一番効果的なのですね。 玉田デニーロ:そう思います。イメージと実際に見た結果が全然違うことの方が多いので、実際に音が鳴る環境で確認する必要があります。あと、『VRChat』だとアバターの身長によっても音の聴こえ方や印象が変わるので、いろんな身長のアバターでチェックしていました。 HONNWAKA88:自分が普段使っているアバターがすごく小さいので、ライブなどを観たときにいつも「なんか音がちょっと上の方から鳴ってるなー」とは思っていたんですけど、頭の位置がリスニングポイントに設定されているためなんですね。 玉田デニーロ:そうですね。今回はLFE(Low-Frequency Effect)、いわゆるサブウーファーを客席の真下に埋め込んだので、背の低いアバターだと相当ズンズン響いてきたと思います。 ――具体例を挙げると『まめひなた』のような低身長アバターで、こうしたVRライブを聴いてみるのもおもしろそうですね。 玉田デニーロ:自分は主に身長180cmくらいのパブリックアバターで音を聴きながら調整していましたね。あと、音源が上にあるように感じやすいのは、『VRChat』における音周りの頭部伝達関数というか、空間を把握するパラメーターが、上方をとても把握しやすいものなんじゃないかなと勝手に思っています。なので、上下は意外と判断しやすい。個人差はあると思いますけど、上の方に意識が向くのはそういった理由もあるのかなと。 ――総じて見ると、デバッグ作業のような調整がとても多いのですね…… 玉田デニーロ:その通りです(笑)。 〈後編につづく〉
文=浅田カズラ、写真=三沢光汰