「人は落ち込んだとき散財してしまう?」「なぜ〝$20.00〞より〝20.00〞のほうが売れる?」日常に潜む行動経済学
なぜ〝$20.00〞より〝20.00〞のほうが売れるのか?
お金との心理的距離について、さらに面白い実験を紹介しましょう。レストランで2通りのメニューを用意しました。 ・Aには「○○○ $20.00」と各料理に「$+金額」を表示 ・Bには「○○○ 20.00」と各料理に「金額のみ」を表示 違うのは「$」の表示があるかないかだけ。メニューのデザインや、料理の種類など、その他の条件はすべて同じです。 結果、Bのメニューを受け取ったお客さんのほうが大幅に消費額が増大しました。 「$」という表示がないことで、頭では金額とわかっていますが、「お金を払う」という行動が心理的に響かず、簡単にお金を使ってしまったのです。 日本でも外資系ホテルや高級レストランでは、「2000円」とせず「2000」というように、算用数字のみのメニューを置いているところがあります。 自分が売り手側で売上を伸ばしたいなら「2000」と数字のみの表示にし、買い手側で節約をしたいとき、もし「2000」という表示になっているメニューを見たら、慎重になったほうがいいでしょう。 また、アプリ決済やeコマースではポイント制度も盛んですが、ここにも透明性を下げる「キャッシュレス・エフェクト」という企業側の戦略があります。 例えば「いつでも返品OK」というサイトは、お金ではなくポイントで返金され、「ポイント=お金」という感覚が薄らぐので、貯まったポイントを気軽に使いがちです。 カジノやゲームセンターでは現金をコインに替えて遊ぶのも同じ理由で、お金を溶かす仕組みがあちこちに潜んでいるのです。 写真/shutterstock
---------- 相良奈美香(さがら なみか) オレゴン大学卒業、同大大学院心理学「行動経済学専門」修士課程および、同大ビジネススクール「行動経済学専門」博士課程修了。デューク大学ビジネススクールポスドクを経て、行動経済学コンサルティング会社であるサガラ・コンサルティング設立、代表に就任。その後、世界3位のマーケティングリサーチ会社・イプソスにヘッドハントされ、同社・行動経済学センター(現・行動科学センター)創設者兼代表に就任。現在は、ビヘイビアル・サイエンス・グループ(行動科学グループ、別名シントニック・コンサルティング)代表として、行動経済学を含めた、行動科学のコンサルティングを世界に展開している。 まだ行動経済学が一般に広まる前から、「行動経済学をいかにビジネスに取り入れるか」、コンサルティングを行ってきた。アメリカ・ヨーロッパで金融、保険、ヘルスケア、製薬、テクノロジー、マーケティングなど幅広い業界の企業に行動経済学を取り入れ、行動経済学の最前線で活躍。 自身の研究はProceedings of the National Academy of Sciencesなどの権威ある査読付き学術誌のほか、ガーディアン紙、CBSマネーウォッチ、サイエンス・デイリーなどの多数のメディアで発表される。また、国際的な基調講演を頻繁に行い、その他にもイェール大学やスタンフォード大学、アメリカ大手のUberなどにも招かれ講演を行うなど、行動経済学を広める活動に従事している。他、ペンシルベニア大学修士課程アドバイザーを務める。 ----------
相良奈美香
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