水星の内部には厚さ10km超のダイヤモンドに富む層があるかもしれない
■水星内部の環境を実験とシミュレーションで探索
しかしXu氏らの研究チームは、従来の考えに疑問を示しています。ごく最近構築された水星の内部構造モデルは、従来よりも核マントル境界の温度や圧力が高いことを予測しています。また、水星内部に含まれる硫黄の量の見直しにより、マントルのすぐ下にある外核は、金属鉄が液体の状態を維持しているという推論もできるようになりました。 そこでXu氏らは、マントルや外核の環境を再現した実験と熱力学的シミュレーションを組み合わせ、水星の内部でダイヤモンドが結晶化するのかを調べました。実験では、試料を最大で70億Pa (大気圧の約7万倍) の圧力にかけ、2000℃前後の温度で解けるかどうかを調べたものが含まれます。 その結果、外核の硫黄含有量が11重量%であると仮定した場合、外核でダイヤモンドが結晶化することを示しました。ダイヤモンドの密度は液体の金属鉄である外核より低いため、ダイヤモンドは浮き上がり、固体の岩石で蓋をされた核マントル境界に溜まることになります。核マントル境界の圧力は約57億7000万Pa (大気圧の約5万7700倍) であると推定されましたが、これはダイヤモンドが安定して存在するのに十分な環境条件です。 また今回の研究では、誕生直後の水星において、マントル内で黒鉛からダイヤモンドが結晶化し、その後核マントル境界へと沈んだ可能性も同時に示されました。ただしXu氏らは、環境条件に関する不確実性が大きいため、外核の場合とは異なり、マントル内でダイヤモンドが結晶化した可能性は低いことを認めています。
■水星内部には分厚いダイヤモンドの層があるかもしれない
Xu氏らは、数十億年かけて少しずつダイヤモンドが溜まっていくため、現在の核マントル境界には厚さ約14.9~18.3km (±10.6km) のダイヤモンドに富む層があると推定しています。このダイヤモンドの層は、水星の謎である固有の磁場の維持に影響を与えている可能性があります。ダイヤモンドは効率的に熱を伝える物質であるため、ただの岩石と比べて核からマントルへの熱輸送が良くなります。熱の輸送は外核の対流に、そして対流によって発生する磁場の生成にも影響を与えます。つまり分厚いダイヤモンド層は、水星の固有の磁場が現在でも維持されている理由になっている可能性があります。 今回の研究では仮定と不確実性が大きなウェイトを占めているため、水星に分厚いダイヤモンド層があるかどうかは検証が必要となります。しかし今回の研究手法は、水星以外の炭素に富んだ太陽系の惑星、さらには太陽系外惑星をモデル化するのに役に立つ可能性があります。 Source Yongjiang Xu, et al. “A diamond-bearing core-mantle boundary on Mercury”. (Nature Communications) “A diamond-bearing core-mantle boundary on Mercury”. (北京高压科学研究中心) Matt Williams. “Mercury Could be Housing a Megafortune Worth of Diamonds!”. (Universe Today) Tejasri Gururaj. “Modeling study proposes a diamond layer at the core-mantle boundary on Mercury”. (Phys.org)
彩恵りり / sorae編集部