「本物をぶっ倒した極上のバッタもん、堤聖也です!」井上拓真と4454日ぶり再戦制し世界王者
<ボクシング:WBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦>◇13日◇東京・有明アリーナ 2つの「悲願」を一気にかなえた。プロボクシングWBA世界バンタム級2位の堤聖也(28=角海老宝石)が世界初挑戦で新王者となった。 同級王者井上拓真(28=大橋)から、10回にスタンディングダウンを奪い、3-0の判定勝ち。高校時代に敗れた因縁の相手との4454日ぶり再戦で雪辱を果たした。12勝(8KO)2分け無敗として、95年生まれ「黄金世代」7人目の世界王者となった。 ◇ ◇ ◇ 堤が世界のチャンピオンベルトを巻いた。リング上で「本物をぶっ倒した極上のバッタもん、堤聖也です!」と叫んだ。井上ら6人の世界王者が誕生していた同学年。自身は日本王座まで。12年間背負い続けた劣等感から解放された瞬間だった。 王者を序盤から圧倒した。連打を重ね、10回にはスタンディングダウンを奪取。最終12回、残り1分。「聖也」コールに背中を押され、ロープ際に追い込んだ。判定勝ちが決まると、腰が抜けたようにリングに座り込んだ。「僕はずっと弱いままなんじゃないかという怖さがあった。報われた」と涙を流した。 悲願の「リベンジ」だった。12年8月3日。熊本・九州学院高2年の全国高校総体準決勝で神奈川・綾瀬西高の井上に判定負け。一時は競技引退もよぎったが、その敗戦をきっかけに、18年にプロ入り。「12年間ずっと片思いして追いかけた。彼がいたおかげで強くなってこの舞台に立てた。人生の恩人と戦うことができた」と感謝も思いも言葉にした。田中恒成、ユーリ阿久井政悟、この日新王者になった岩田翔吉も「黄金世代」。そのトップ選手に「追いかけて追いついて、今日超えることができた。本当に最高」と雪辱した。 悲願の「世界タイトル」だった。アマ時代は大学1年時の国体準優勝くらいで。全国優勝はゼロ。プロでは22年に日本バンタム級王座を獲得も、満足はできなかった。昨年12月、穴口一輝の挑戦を受け、4度目の防衛に成功。しかし、相手が試合後に意識を失い亡くなる悲劇が起こった。さまざまな思いも胸に戦ってきた。 同級はWBC中谷潤人、IBF西田凌佑、WBO武居由樹と日本人王者が世界4団体を独占。「他のも欲しいと思うのが自然。評価のあるチャンピオンに勝ったから、そういうことも言っていいのかなと思う。ただおなかいっぱいなので、次のご飯のことは考えたくない」。少し休み、バッタもんから本物に-。ベルトを手に、次の悲願を探す。【飯岡大暉】 ◆堤聖也(つつみ・せいや)1995年(平7)12月24日生まれ、熊本市出身。中学2年からボクシングを始め、九州学院高-平成国際大。国体では大学1年だった14年に準優勝。アマ戦績は84勝(40RSC)17敗。18年にワタナベジムからB級(6回戦)でプロデビュー。19年に角海老宝石へ移籍。22年に日本バンタム級王座を獲得し、4度の防衛成功後の24年1月に返上。23年の同級モンスタートーナメント優勝。趣味は古着集めと料理。家族は母邦代さんと兄姉。身長166センチのスイッチボクサー。 ◆バンタム級世界戦線メモ 堤が井上との同級生対決を制し、新たなWBA王者となった。14日にはWBC王者中谷が1位ペッチ(タイ)との2度目防衛戦を控える。IBF王者西田は12月に初防衛戦の実現に向けて交渉中。WBO王者武居は今年9月、元WBC世界フライ級王者比嘉大吾(志成)に判定勝利して初防衛戦に成功。年末に予定される4団体統一スーパーバンタム級王者井上尚弥(大橋)とのダブル世界戦として2度目防衛戦に臨む見通しだ。