この1台に先端技術のヒントが詰まっていた…トヨタの技能者が66年前の「初代クラウン」を復元した驚きの結果
■先人の開発者たちのメンタルの強さ 川岡たちがレストアをやりながら痛感したのは豊田喜一郎たち、かつての開発陣のメンタルの強さだ。 「技術も情報も資源もなかったわけです。当時、他社さんはオースチン、ルノーといった海外メーカーのノックダウン生産をして技術を蓄えていきました。ですが、喜一郎は純国産で車を作ることにした。日本に自動車文化を作ろうと思っていたからです。レストアしながら感じたのは毎日がチャレンジだったこと。技術の開発はすべて初めてのことだったから、チャレンジしてマインドを鍛えていった。僕らがこの仕事を通して感じたのはマインドとメンタルの強さです。 『技能は技術の母、技能無しにして技術の進化なし、ロボットがうまいのではなく、教えた人がうまい、常に人が技能を進化させて技術も進化させるこのスパイラルアップが大事』 河合おやじは毎回、身に染みることを話すんですよ。 前線にいる僕らは百年に一度の危機を感じています。EVの電池、テスラやBYD、グーグル……。自動車会社だけがライバルではない時代です。新しいことをやっていかないと、トヨタはつぶれてしまう。新しいことに挑戦しなくてはいけない環境にいます。今は創業の時と同じ環境だと思うんです。それなのにまだ僕らは喜一郎たちにマインドでは負けている。強いマインドを作っていくためにレストアをやっています」 ---------- 野地 秩嘉(のじ・つねよし) ノンフィクション作家 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。 ----------
ノンフィクション作家 野地 秩嘉