『アオアシ』連載10年でいよいよ最終回へ 「サッカー漫画の金字塔」と呼ばれる理由とは?
Jリーグユースチームを舞台に描かれた作品であり、累計発行部数2000万部を超える大人気サッカー漫画としてその地位を確立した『アオアシ』(小林有吾)。2022年4月にはアニメ化も果たし、アニメ公開前から発行部数を更に500万部以上伸ばし、より多くの支持を集めることとなった。 【写真】絵心甚八の再現度がすごい! 舞台『ブルーロック』のビジュアル そんな人気絶頂の中で2024年12月25日に『アオアシ』公式Xで作者の小林有吾先生の直筆メッセージでまもなく最終回を迎えることが発表された。連載終了の一報を受け多くのファンから完結を惜しむ声や、作品への感謝の言葉が贈られている。そこで本記事では、改めて『アオアシ』という作品の魅力について触れていきたい。 ▪️絶望から這い上がるプロとしての生き方を学ぶ 愛媛県内の中学校サッカー部でフォワードとしてプレーしていた葦人は、Jリーグ屈指の強豪クラブ「東京シティ・エスペリオン」のユースチーム監督である福田達也(ふくだたつや)に見出され、プロへの登竜門である東京シティ・エスペリオンユースチームのトライアウトに参加する。難関のセレクションに見事合格した葦人が憧れのプロサッカー選手になる為、チーム内での競争やライバルチームとの闘いなど様々な壁に直面しながらも努力と知略で乗り越えていく様が描かれる。 多くの読者に衝撃を与えたのが、6巻のラストに福田から葦人に向けて告げられた「サイドバックに転向しろ」という宣告だ。世界一のストライカーになる為にサッカーに取り組んで来た葦人からすればそれは半ば死刑宣告にも近いことだろう。 それでも、俯瞰の視点でピッチを広く捉えられる特別な能力を持つ葦人が最大限活躍できる場所はサイドバックであることをしっかりと理由づけて本人に伝える福田監督の姿や、葦人自身が自分の特性を次第に理解し自身の存在感を高めていく過程が丁寧に描かれており、読者からしてもポジション転向に納得感を持つことができる。 その事例から例え1つのポジションで大成できなくても、自分が他に輝ける場所を見つけることで生き残っていけるという姿が人生としての学びにもなる。周囲とどう連動すればいいのか、相手は自分に何を求めているのか。『アオアシ』という作品がビジネスパーソンにも深く刺さっていると言われるのはそんな部分が理由になっているのだろう。読者がサッカーというスポーツに対して葦人と共に学びながら成長していける、そんなサッカーリテラシーの向上にも本作品は大きく寄与しているのだ。 ▪️人間ドラマとしての読み味の深さ もう1つ見逃せないのが『アオアシ』の人間ドラマとしての深みだろう。エスペリオンユースチームで揉まれ、サッカーにのめり込んでいく葦人。時に危うい精神状態となりながらも突き進んでいく最中、かつて将来を嘱望されながら怪我により引退を余儀なくされた福田達也を兄に持つ一条花(いちじょうはな)の存在感は作中でも際立つ。 物語の要所で葦人に放つ花の言葉が記憶に深く刻み込まれている読者も少なくないだろう。「頑張れ、負けるな、力の限り」。葦人の中で段々と花の存在が大きくなっていく過程にも注目して欲しい。花をはじめとした葦人を取り巻く様々なキャラクターとの関係性も見逃せない。 普段はおちゃらけているがいざというときに頼りになるチームメイト大友の存在や、3巻で葦人が地元愛媛を離れる際の電車の中で母親からの手紙を読んで号泣するシーン。そして最強のユースチーム東京シティ・エスペリオンユースを支える福田達也が放つ選手の琴線に触れる言葉の数々。度々心を揺さぶられる瞬間が訪れる『アオアシ』という作品と共に読者も成長してこれたような想いにさせてくれる、そんな10年だった。 作品が完結を迎える寂しさはやはり拭えないが、最後の最後まで葦人達がピッチで躍動する、世界を驚かせるサッカーを一読者として堪能したい。
もり氏