“日本酒愛”実った 入社5年目で製造責任者抜てき、当主以外は創業以来初 福島・磐梯酒造
福島県磐梯町の磐梯酒造で4日、製造責任者に入社5年目の女性を起用したオリジナル日本酒の製造が始まった。挑戦するのは下郷町出身の長崎瞳さん(43)。当主以外が製造責任者になるのは創業以来初めてだが、日本酒造りへの姿勢と熱意が見込まれての大抜てきだ。「今ある知識と力を全部出し切る」と語る“新鋭”が、次の「日本酒王国」を担う。 「吸水が順調だった。幸先がいい」。4日に精米した米を洗ってぬかを取っていく洗米と、米に適量の水分を吸収させる浸漬(しんせき)を行った長崎さんは、笑顔を見せた。県オリジナル酒造好適米「福乃香」を使用し、純米吟醸酒約800リットルを製造する。本格的な仕込み作業を進め、2月中旬の出荷を計画。「仕上がりが良ければ県の春季鑑評会に出品したい」と目を輝かせる。
異色の経歴
長崎さんは関東のテレビ制作会社に勤務した後、帰郷して温泉旅館で働き、情報発信のため各地の酒蔵を取材する中で酒造りに魅せられた。「ものづくりに関わりたい」。一念発起して磐梯酒造に入社。県清酒アカデミー職業能力開発校にも在籍し、酒造りの技術や知識を学んでいる。 疑問があれば徹底的に聞いて回り、麹(こうじ)作りの担い手「麹屋」の役職を引き継いでからも退職した前任者に何度も連絡を取って仕事に打ち込んだ。桑原大社長(61)は「酒造りへの興味が本物だった」と、その「やる気」を今回の起用の理由に挙げる。 入社5年目の女性が製造責任者になるのは業界でも異例といい、計画立案から仕込み配合、麹やもろみの管理、ネーミング、ラベルデザインまでを従業員に一貫して任せるのは、同社の創業130年以上の歴史で初めての試み。長崎さんは重圧を感じながらも「こんな幸運なことはない」と引き受けた。
「さなぎ」と命名
目指す味は、ほのかな甘みがありながら切れのいい爽やかな辛口。香りにもこだわり、リンゴ系の香りが引き立つ酵母を採用した。長崎さんは「麹や酵母は素直な生き物。温度変化に敏感で、適切に手を入れていけばとてもいい働きをしてくれる。そこが難しさであり、面白さでもある」と酒造りの魅力を語る。 商品名は「さなぎ」とし、初めて酒造りに取り組む自身をそのまま表すことにした。完成後は町内の道の駅ばんだいなどで販売予定。本格的な仕込みに向けて長崎さんは「名前は『さなぎ』だけど、仕上がりが美しいチョウを思わせる味わいになればうれしい」と意気込んだ。(伊藤雅将)
福島民友新聞