メディカルクリエーションふくしま20周年/医療機器の最前線(3) 世界最小径を実現 福島県矢吹町のエスクが貢献
光沢を放つ金属管がしなやかな曲線を描く。福島県矢吹町のエスクが生み出した金属製の精密パイプはカテーテルなど最先端の医療機器に使われている。社長の高畠伸幸(65)は「命を救う仕事を『できない』と断りたくない」と技術開発に心血を注ぐ。 高畠は須賀川市でブラウン管テレビの部品を製造していた工場の製造部長を務めていた。パイプ製造の技術を生かそうと退社し、2000(平成12)年に郡山市で創業した。 金属の材料を金型に通して引き伸ばす工法で、ステンレスなどのパイプ製造を始めた。材料の特性を把握した金属加工の腕前はドイツの大手部品メーカーの目に留まった。2001年、高級車メルセデス・ベンツのアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の部品に採用され、量産化を開始。世界に通用する技術力を証明した。 自動車や半導体、宇宙産業など幅広い分野で発注が増え、2006年に本社工場を矢吹町に移転して生産体制を増強した。
転機は2004年ごろ。医療機器メーカーから治療の際に体内で目印になる金属チューブの開発を打診された。エックス線で確認でき、胃酸などに溶けないようにする。レアメタル「タンタル」の加工に挑んだ。作業の温度や速度を調整して仕上げた製品は高い評価を得て、医療分野の取引拡大につながった。 2008年のリーマン・ショックで、自動車や半導体分野で見込んでいた発注が途絶えた。仕入れた材料を抱え込む危機に陥った。だが、医療分野は機器や用具が常に必要となるため、景気の影響を受けにくい。医療機器の開発を本格化させ、外径0・2ミリ、内径0・1ミリという世界最小径の形状記憶合金細管の製造に成功した。血管内部を傷つけない柔らかさと、治療箇所まで最短距離で到達する直進性を両立させた。 狭まった血管を拡幅するステント(筒状の金属製の網)は年間7万5千本を生産する。体内で溶ける次世代ステント材として注目されるマグネシウム合金の精密細管の実用化が進む。